【判例解説】伝聞証言に対する異議と同意-高輪グリーンマンション殺人事件(証拠):最決昭和59年2月29日 

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Point 
1.伝聞ないし再伝聞証言について、異議の申立てがされることなく当該証人に対する尋問が終了した場合には、直ちに異議の申立てができないなどの特段の事情がない限り、黙示の同意があつたものとしてその証拠能力を認めるとした判例  

 

(関連条文) 

・刑事訴訟法309条1項 「検察官、被告人又は弁護人は、証拠調に関し異議を申し立てることができる。 

・刑事訴訟規則199条の13第2項 「訴訟関係人は、次に掲げる尋問をしてはならない。ただし、第2号から第4号までの尋問については、正当な理由がある場合は、この限りでない。 

 4号 「証人が直接経験しなかつた事実についての尋問 

刑事訴訟法320条1項 「321条乃至第328条に規定する場合を除いては、公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない。 

・322条1項 「被告人が作成した供述書又は被告人の供述を録取した書面で被告人の署名若しくは押印のあるものは、その供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき、又は特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り、これを証拠とすることができる。但し、被告人に不利益な事実の承認を内容とする書面は、その承認が自白でない場合においても、第319条の規定に準じ、任意にされたものでない疑があると認めるときは、これを証拠とすることができない。 

・324条1項 「被告人以外の者の公判準備又は公判期日における供述で被告人の供述をその内容とするものについては、第322条の規定を準用する。 

・326条1項 「検察官及び被告人が証拠とすることに同意した書面又は供述は、その書面が作成され又は供述のされたときの情況を考慮し相当と認めるときに限り、第321条乃至前条の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。 

 

【争点】 

・伝聞供述について、異議を述べずに証人尋問が終了した場合における、証言の証拠能力 

 

1.判旨と解説 

 

 本件で証人は、かつて被告人がした言動について証言しています。このように、他人の供述を内容とする証人の証言を伝聞証言といいます。他人の言動を内容とする伝聞証言の多くは伝聞証拠にあたります。そのためその証言部分は、刑訴法324条の準用する規定に該当する場合に、証拠能力が認められます。 

 

*伝聞証拠の解説はこちら 

 

その他に、被告人が同意した場合も、証拠能力が肯定されます。本件では、証人の伝聞証言について、被告人及び弁護人は異議を述べずに反対尋問をするなどし、証人尋問を終えています。 

 

最高裁は、異議の申立てがされることなく当該証人に対する尋問が終了した場合には、直ちに異議の申立てができないなどの特段の事情がない限り、黙示の同意があつたものとしてその証拠能力が肯定されるとしました。 

 

 「記録によれば、渡部達郎警部は、第一審において、ポリグラフ検査の際、被告人に本件被害者の着用していたネグリジエの色等、本件の真犯人でなければ知り得ない事項についての言動があつた旨証言し、第一審判決及びこれを是認した原判決は、右証言を採用して右言動を認定し、これをもつて被告人を本件の真犯人と断定する一つの情況証拠としていることが明らかである。右証言は伝聞ないし再伝聞を内容とするものであるが、右証言の際、被告人及び弁護人らは、その機会がありながら異議の申立てをすることなく、右証人に対する反対尋問をし、証人尋問を終えていることが認められる。このように、いわゆる伝聞ないし再伝聞証言について、異議の申立てがされることなく当該証人に対する尋問が終了した場合には、直ちに異議の申立てができないなどの特段の事情がない限り、黙示の同意があつたものとしてその証拠能力を認めるのが相当である(最高裁昭和二六年(あ)第四二四八号同二八年五月一二日第三小法廷判決・刑集七巻五号一〇二三頁、同二七年(あ)第六五四七号同二九年五月一一日第三小法廷判決・刑集八巻五号六六四頁、同三一年(あ)第七四〇号同三三年一〇月二四日第二小法廷判決・刑集一二巻一四号三三六八頁等参照。これらの判決は、伝聞証言の証拠能力を認めるについて、異議の申立てがなかつたことのほか、証人に対し尋ねることはない旨述べられた場合であること等の要件を必要とするかのような判示をしているが、後者の点は当該事案に即して判示されたにすぎず、ことに右のような陳述の点は、その有無によつて、伝聞証言の証拠能力に特段の差異を来すものではないと解される。)。 

 

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