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1.罪名を記載するにあたっては、適用法条まで示す必要はない
2.「本件に関係ありと思料せられる一切の文書及び物件」との記載は、許される場合がある |
(関連条文)
・憲法35条1項 「何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第33条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。」
・刑事訴訟法218条1項 「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。」
・219条1項 「前条の令状には、被疑者若しくは被告人の氏名、罪名、差し押さえるべき物、記録させ若しくは印刷させるべき電磁的記録及びこれを記録させ若しくは印刷させるべき者、捜索すべき場所、身体若しくは物、検証すべき場所若しくは物又は検査すべき身体及び身体の検査に関する条件、有効期間及びその期間経過後は差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証に着手することができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。」
【争点】
・捜索差押令状に罰条の記載を要するか
・差し押さえるべき物の概括的記載が許されるか
1.判旨と解説
本件で捜査機関は、地方公務員法違反の被疑事実で捜査を開始しました。そして、罪名を「地方公務員法違反」、差し押さえるべき物を「会議議事録、斗争日誌、指令、通達類、連絡文書、報告書、メモその他本件に関係ありと思料せられる一切の文書及び物件」とする令状が発布され、捜索差押えが実行されました。
そこで、罪名を「地方公務員法違反」とするのが許されるか、つまり、令状の罪名欄に具体的な適用条文(~条違反等)を示す必要があるかが問題となります。
*捜索・差押えの解説はこちら
この点について最高裁は、「令状が正当な理由に基づいて発せられたこと」まで、令状で明示することは憲法上要求されていないとします。そのため、罪名の記載は刑事訴訟法上要求されるものなので、罪名を記載するにあたっては、適用法条まで示す必要はないとします。
「憲法35条は、捜索、押収については、その令状に、捜索する場所及び押収する物を明示することを要求しているにとどまり、その令状が正当な理由に基いて発せられたことを明示することまでは要求していないものと解すべきである。されば、捜索差押許可状に被疑事件の罪名を、適用法条を示して記載することは憲法の要求するところでなく、捜索する場所及び押収する物以外の記載事項はすべて刑訴法の規定するところに委ねられており、刑訴二一九条一項により右許可状に罪名を記載するに当つては、適用法条まで示す必要はないものと解する。」
次に、「その他本件に関係ありと思料される一切の文書及び物件」との概括的な記載が許されるかが問題となります。
包括授権的な令状の発付が禁止されているのは、捜査権限の濫用を防ぎ対象者の利益を保護するためです。もっとも、捜索差押えの段階では、捜索場所にいかなる証拠物が存在するか正確に把握することができないこともあります。そのため、差し押さえるべき物の記載を、ある程度概括的なものとしてしまうのはやむを得ないといえるでしょう。
最高裁は、「本件に関係ありと思料せられる一切の文書及び物件」は、①具体的な例示に付加されたものであって②令状に記載された被疑事実に関係があり、かつ、例示の物件に準じるものを指すことが明らかであるとして、本件令状に基づいて行われた差押えを適法としました。
「そして本件許可状における捜索すべき場所の記載は、憲法三五条の要求する捜索する場所の明示として欠くるところはないと認められ、また、本件許可状に記載された「本件に関係ありと思料せられる一切の文書及び物件」とは、「会議議事録、斗争日誌、指令、通達類、連絡文書、報告書、メモ」と記載された具体的な例示に附加されたものであつて、同許可状に記載された地方公務員法違反被疑事件に関係があり、且つ右例示の物件に準じられるような闘争関係の文書、物件を指すことが明らかであるから、同許可状が物の明示に欠くるところがあるということもできない。」