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1.本件では、被告人の脅迫は窃盗の機会の継続中に行われたものとは言えない。 |
1.事案の概要
被告人は、午後0時50頃、分金品窃取の目的で、A方住宅に侵入し、現金等の入った財布及び封筒を窃取しました。侵入の数分後に戸外に出て、だれからも発見、追跡されることなく、自転車で約1km離れた公園に向かいました。
被告人は、同公園で盗んだ現金を数えましたが、3万円余りしかなかったため少ないと考え、再度A方に盗みに入ることにして自転車で引き返しました。午後1時20分ころ,同人方玄関の扉を開けたところ、室内に家人がいると気付き、扉を閉めて門扉外の駐車場に出たが、帰宅していた家人のBに発見され、逮捕を免れるため、ポケットからナイフを取り出し、Bに刃先を示し、左右に振って近付き、Bがひるんで後退したすきを見て逃走しました。
(関連条文)
・刑法238条 「窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。」
【争点】
・被告人の脅迫は、窃盗の機会に行ったものと言えるか
2.判旨と解説
被告人は、A方で財布等を盗んだ後、逮捕を免れる目的でBに脅迫をしています。そのため、被告人は事後強盗既遂となるよう思われます(事後強盗罪が既遂か未遂かは、先行する窃盗が既遂か未遂かで決定される)。
*事後強盗罪の解説はこちら
*強盗罪の解説はこちら
*窃盗罪の解説はこちら
もっとも、後行する暴行・脅迫は窃盗の機会継続中に行われる必要があると解されています。窃盗とこれらの行為が密接に関連することにより、通常の強盗罪と実質的に同視できるためです。
そこで、被告人の脅迫が窃盗の機会継続中に行われたと言えるかが問題となります。この要件の充足性が否定された場合、被告人に事後強盗罪は成立せず(未遂にもならない)、窃盗罪、暴行罪の併合罪となります。
*暴行罪の解説はこちら
本件で最高裁は以下の事情を指摘し、後行する脅迫行為時には、財物を取り返されたり逮捕されたりする状況はなくなっていたので、脅迫は窃盗の機会に行われたものといえないとしました。
①財布窃取後、誰にも発見・追跡されず現場を離れた
②犯行後ある程度の時間(30分)を過ごしている
「上記事実によれば,被告人は,財布等を窃取した後,だれからも発見,追跡されることなく,いったん犯行現場を離れ,ある程度の時間を過ごしており,この間に,被告人が被害者等から容易に発見されて,財物を取り返され,あるいは逮捕され得る状況はなくなったものというべきである。そうすると,被告人が,その後に,再度窃盗をする目的で犯行現場に戻ったとしても,その際に行われた上記脅迫が,窃盗の機会の継続中に行われたものということはできない。」