窃盗罪は財産犯の1つで、日本においても多く発生する犯罪です。ここでは、窃盗罪を成立要件に沿って解説します。
・刑法235条 「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」
・刑法243条 「第235条から第236条まで及び第238条から第241条までの罪の未遂は、罰する。」
1.他人の財物とは
他人の財物とは、他人が所有権を有する財物を言います。他人の所有権に属さない物は、ここでいう財物には該当しません。
例① Xが買った本
これは当然、他人の財物に該当します。
例② Xが買った覚醒剤
判例によれば、覚せい剤等の禁制品も財物に含まれるとされています。許可を得れば禁制品を適法に所有・所持することが可能となる、許可がなくとも適切な手続きによってこれを没収(刑法19条)するべきであることなどが根拠とされます。
例③ Xが持っている情報
一般に、情報それ自体は財物にあたらないとされています。そのため、情報が窃盗罪の客体となるのは、これが何らかの媒体に記録されている場合(紙やディスク)となります。
なお、自己の財物であっても、これを他人が占有する場合には、他人の財物とみなされます(刑242条)。この条文が適用される結果、他人が占有する自己の財物を窃取する場合(例えば、賃貸人が、賃借人から賃貸借契約の目的物を窃取する場合)でも、窃盗罪が成立することがあります。
・刑法242条 「自己の財物であっても、他人が占有し、又は公務所の命令により他人が看守するものであるときは、この章の罪については、他人の財物とみなす。」
*刑法242条についての判例はこちら
2.窃取とは
窃取とは、他人の占有する財物を占有者の意思に反して自己又は第三者の占有に移転させることを言います。
占有とは、財物に対する事実上の支配を及ぼしている状態を言います。
占有の有無については、「刑法上の占有は人が物を実力的に支配する関係であって、その支配の態様は物の形状その他の具体的事情によって一様ではないが、必ずしも物の現実の所持又は監視を必要とするものではなく、物が占有者の支配力の及ぶ場所に存在するを以て足りると解すべきである。しかして、その物がなお占有者の支配内にあるというを得るか否かは通常人ならば何人も首肯するであろうところの社会通念によって決するの外はない。」とされています(最高裁昭和32年11月8日第二小法廷判決)。
例① Xがバッグを肩にかけている状態
財物を身につけていたり、握持していたりする場合には、占有が肯定されます。これはイメージしやすいと思います。
例② Xの住居内のどこかにあるバッグ
財物を身につけていなくとも、占有が肯定される場合は多くあります。自分の住居のように、他人に解放されていない閉鎖的な空間にある財物については、たとえその財物が住居内のどこにあるかを認識していなくとも、事実上の支配が認められるので、占有が肯定されます。
例③ 死亡したXが身につけているバッグ
死者には原則として占有は認められないと解されています。そのため、死者から財物を奪った場合には、基本的には占有離脱物横領罪が成立するにとどまります。
3.不法領得の意思とは
条文にはありませんが、判例・通説によると、窃盗罪の成立には、故意の他に不法領得の意思が必要とされます。不法領得の意思とは、「権利者を排除し他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思」を言います(最高裁昭和26年7月13日最高裁第二小法廷判決、前者を排除意思、後者を利用意思と言います)。
判例・通説が、このような明文のない不法領得の意思を要求するのは以下の理由によります。
①排除意思=不可罰な使用窃盗(他人の財物の一時使用。要は少し借りて返すこと)との区別・・・窃盗罪の成立には、他人の財物を窃取することにより財産権を侵害することが必要です。しかし、使用窃盗は被害者の侵害が微小なため不可罰となっています。そこで、可罰的な窃盗と不可罰な使用窃盗とを区別する基準が必要となります。
②利用意思=毀棄罪との区別・・・刑法は窃盗罪の他に毀棄罪(器物等損壊罪など)を設けています。窃盗は財物を奪うだけですが、毀棄罪はその物を破壊してしまうので、被害者からすると、毀棄罪の方が法益侵害が大きいと思われます。しかし、刑法上、毀棄罪よりも窃盗罪の方が法定刑が重いのです。これは、他人の物を奪って利用しようとする意思がある者の方が、物を壊そうとする者よりも非難に値し、また、これを強く予防する必要があるためです(この考え方の妥当性はともかく、これが現行刑法の立場です)。そこで、窃盗罪と毀棄罪を区別する基準が必要となります。
・刑法261条 「前3条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。」
*不法領得の意思についての判例はこちら