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1.市議会による出席停止処分に司法審査が及ばないとした判例を変更。 |
1.事案の概要
被上告人Xは、平成27年12月に行われた選挙において当選し、本件処分当時、市議会議員でした。Xは、市議会から課された23日間の出席停止処分(以下、本件処分)が違憲、違法であるとしてその取消しと、本件処分により減額された議員報酬の支払いを求めて訴訟を提起しました。
*議会議員の議員報酬、費用弁償及び期末手当に関する条例(以下、本件条例)によると、市議会の議員の議員報酬は月額36万3000円とされ、一定期間の出席停止の懲罰を受けた議員の議員報酬は、出席停止の日数分を日割計算により減額するものとされていました。
Xと同一の会派に属するA議員は、海外渡航のため、平成28年に行われた市議会の委員会を欠席しました。市議会は、A議員に対し、上記の欠席について、議決により公開の議場における陳謝の懲罰を科しました。これを受けA議員は、市議会の議場において、陳謝文を読み上げました。Xは、市議会の別の委員会において、A議員が陳謝文を読み上げた行為に関し、「読み上げたのは、事実です。しかし、読み上げられた中身に書いてあることは、事実とは限りません。それから、仮に読み上げなければ、次の懲罰があります。こういうのを政治的妥協といいます。政治的に妥協したんです。」との発言(以下、本件発言)をしました。
市議会は本件発言を問題として、議決により23日間の出席停止の懲罰を科する旨の本件処分をしました。上告人Yは、Xに対し、本件条例に基づき、本件処分により出席停止とされた23日間の分に相当する27万8300円を減額して議員報酬を支給しました。
第一審が訴えを不適法としたのに対し、原審は、普通地方公共団体の議会の議員に対する地方自治法135条1項3号所定の出席停止の懲罰の適否は、議員報酬の減額を伴う場合には司法審査の対象となり,本件処分の取消し及び議員報酬の支払を求める訴えは適法であるとして、これを不適法とした第1審を取り消し、第1審に差し戻しました。
(関連条文)
・裁判所法3条1項 「裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。」
【争点】
・地方議会の行った出席停止処分は、司法審査の対象となるか
2.判旨と解説
判例上、一定の領域の紛争については部分社会の法理が適用されるとされています。部分社会の法理とは、「自律的な法規範をもつ社会ないしは団体に在つては、当該規範の実現を内部規律の問題として自治的措置に任せ、必ずしも、裁判にまつを適当としないものがあるから」、「一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り」、これに該当する紛争については司法審査の対象とならないとするものです。
判例上、部分社会の法理の適用が認められた例として、国立大学の単位認定行為(最高裁昭和52年3月15日第三小法廷判決)、政党内部における処分(最高裁昭和63年12月20日第三小法廷判決)や、本件のような地方議会議員の出席停止処分(最高裁昭和35年10月19日大法廷判決)が挙げられます。また、最近の判例では、地方議会議長による発言取消命令についても司法審査が及ばないとされています(最高裁平成30年4月26日第一小法廷判決)。
他方、地方議会議員の除名処分については、議員の身分の喪失に関する重大事項であり、単なる内部規律の問題にとどまらないため、司法審査の対象となります(最高裁昭和35年3月9日大法廷判決)。
このように判例は、地方議会議員の出席停止処分は司法審査の対象とならない、除名処分は司法審査の対象となる、との立場をとっていました。
しかし、本件で最高裁は明示的に判例変更をして、地方議会議員の出席停止処分については、常に司法審査の対象になるとしました。なお、以下の点には注意が必要です。
①判例が部分社会の法理自体を放棄したわけではない
②原審は、出席停止処分が議員報酬の減額につながる場合には、司法審査の対象となると判示
→最高裁はこのような留保をせず、出席停止処分には常に司法審査が及ぶとした
判例変更の理由は出席停止処分の重大性です。議員はその地域に住む住民による選挙によって選出されています。出席停止処分がされると、当該議員はその期間、会議・委員会に出席して議決に加わることができなくなり、住民の負託を受けた議員としての責務を十分に果たせなくなります。そのため、内部的な問題にとどまるとはいえないのです
「出席停止の懲罰は,上記の責務を負う公選の議員に対し,議会がその権能において科する処分であり,これが科されると,当該議員はその期間,会議及び委員会への出席が停止され,議事に参与して議決に加わるなどの議員としての中核的な活動をすることができず,住民の負託を受けた議員としての責務を十分に果たすことができなくなる。このような出席停止の懲罰の性質や議員活動に対する制約の程度に照らすと,これが議員の権利行使の一時的制限にすぎないものとして,その適否が専ら議会の自主的,自律的な解決に委ねられるべきであるということはできない。そうすると,出席停止の懲罰は,議会の自律的な権能に基づいてされたものとして,議会に一定の裁量が認められるべきであるものの,裁判所は,常にその適否を判断することができるというべきである。したがって,普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は,司法審査の対象となるというべきである。これと異なる趣旨をいう所論引用の当裁判所大法廷昭和35年10月19日判決その他の当裁判所の判例は,いずれも変更すべきである。」