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【判例解説】訴因の特定②(公訴の提起):最高裁平成26年3月17日第一小法廷決定

Last Updated on 2020年10月28日

 

Point 
1.本件訴因は、他の犯罪事実との区別が可能で、いかなる犯罪の構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにされているため、訴因の特定に欠けることはない。 

 

1.事案の概要 

 

被告人は傷害罪等多数の訴因で起訴されました。このうちAを被害者とする傷害被告事件(以下「A事件」という。)の訴因、以下のようなものです。 

 

「被告人は,かねて知人のA(当時32年)を威迫して自己の指示に従わせた上,同人に対し支給された失業保険金も自ら管理・費消するなどしていたものであるが,同人に対し,(1)平成14年1月頃から同年2月上旬頃までの間,大阪府阪南市(中略)のB荘C号室の当時のA方等において,多数回にわたり,その両手を点火している石油ストーブの上に押し付けるなどの暴行を加え,よって,同人に全治不詳の右手皮膚剥離,左手創部感染の傷害を負わせ,(2)Dと共謀の上,平成14年1月頃から同年4月上旬頃までの間,上記A方等において,多数回にわたり,その下半身を金属製バットで殴打するなどの暴行を加え,よって,同人に全治不詳の左臀部挫創,左大転子部挫創の傷害を負わせたものである。」 

 

また,Bを被害者とする傷害被告事件(以下「B事件」という。)の訴因は以下のようなものです。 

 

「被告人は,F,G及びHと共謀の上,かねてB(当時45年)に自己の自動車の運転等をさせていたものであるが,平成18年9月中旬頃から同年10月18日頃までの間,大阪市西成区(中略)付近路上と堺市堺区(中略)付近路上の間を走行中の普通乗用自動車内,同所に駐車中の普通乗用自動車内及びその付近の路上等において,同人に対し,頭部や左耳を手拳やスプレー缶で殴打し,下半身に燃料をかけ,ライターで点火して燃上させ,頭部を足蹴にし,顔面をプラスチック製の角材で殴打するなどの暴行を多数回にわたり繰り返し,よって,同人に入院加療約4か月間を要する左耳挫・裂創,頭部打撲・裂創,三叉神経痛,臀部から両下肢熱傷,両膝部瘢痕拘縮等の傷害を負わせたものである。」 

 

関連条文) 

・刑事訴訟法256条1項 「公訴の提起は、起訴状を提出してこれをしなければならない。」 

・同条2項 「起訴状には、左の事項を記載しなければならない。」 2号 「公訴事実」 

・同条3項 「公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。」 

・刑事訴訟法338条 「左の場合には、判決で公訴を棄却しなければならない。」 4号 「公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるとき。」 

 

【争点】 

・本件訴因は特定されていると言えるか 

 

2.判旨と解説 

 本件で、被告人が犯したA事件、B事件の訴因は、幅のある期間が記載されています。また、その期間内に複数回の暴行が行われたところ、各行為を個別に記載するのではなく、包括的に記載しています。そこで、本件訴因は特定されていると言えるかが問題となりました。 

 

*訴因の特定についての説明とその他の判例についてはこちら 

 

 まず、本件は同一人に対する傷害行為が幅のある期間で複数回行われていますが、このような場合、被告人の行為は包括的に一罪と評価されると解されています(包括一罪)。本件で、被告人が上記期間内に犯した傷害行為は、それぞれ一つの傷害罪が成立するとされています(なお、A、B両傷害罪の関係は併合罪となります) 

 

 ある犯罪が包括一罪と解される場合、個別の行為をそれぞれ具体的に特定する必要はなく、全体として特定すれば足りるとされています。というのも、包括一罪といっても事例毎に犯罪の期間・行為回数に幅はありますが、一般に個々の行為と対応する結果を個別に特定するのは困難であるし、また、これを全体としてとらえ場合でも、他の犯罪と識別することは可能なためです 

  

 本件で最高裁は、本件訴因は他の犯罪事実の区別が可能で、傷害罪の構成要件に該当するかどうかを判定するのに足りる程度に具体的に明らかであるから、訴因の特定としては十分であるとしました。 

 

↓以下原文 

検察官主張に係る一連の暴行によって各被害者に傷害を負わせた事実は,いずれの事件も,約4か月間又は約1か月間という一定の期間内に,被告人が,被害者との上記のような人間関係を背景として,ある程度限定された場所で,共通の動機から繰り返し犯意を生じ,主として同態様の暴行を反復累行し,その結果,個別の機会の暴行と傷害の発生,拡大ないし悪化との対応関係を個々に特定することはできないものの,結局は一人の被害者の身体に一定の傷害を負わせたというものであり,そのような事情に鑑みると,それぞれ,その全体を一体のものと評価し,包括して一罪と解することができる。  

 

そして,いずれの事件も,上記の訴因における罪となるべき事実は,その共犯者,被害者,期間,場所,暴行の態様及び傷害結果の記載により,他の犯罪事実との区別が可能であり,また,それが傷害罪の構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにされているから,訴因の特定に欠けるところはないというべきである。 

 

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