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[解説] 訴因の特定①(公訴の提起):最高裁昭和56年4月25日第一小法廷決定 

Last Updated on 2020年10月16日

 

Point 
1.本件公訴事実における訴因は、特定性に欠けることはない 

 

1.事案の概要 

 

被告人は、覚せい剤取締法違反の被疑事実で逮捕・起訴されました。検察官は、「被告人は、法定の除外事由がないのに、昭和54年9月26日ころから同年10月3日までの間、広島県高田吉田町内及びその周辺において、覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパン塩類を含有するもの若干量を自己の身体に注射又は服用して施用し、もつて覚せい剤を使用したものである。」との公訴事実を起訴状に記載しました。  

 

(関連条文) 

・刑事訴訟法256条1項 「公訴の提起は、起訴状を提出してこれをしなければならない。」 

 

・同条2項 「起訴状には、左の事項を記載しなければならない。」 2号 「公訴事実」 

 

・同条3項 「公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。 

 

・刑事訴訟法338条 「左の場合には、判決で公訴を棄却しなければならない。」 4号 「公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるとき。」 

 

 

【争点】  

本件訴因は特定されていると言えるか 

 

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2.判旨と解説 

 

 公訴事実は訴因を明示して記載しなければならず、検察官には犯行の日時、場所等をできるだけ示して訴因を特定することが求められます(刑訴256条3項)。訴因の特定性が欠けると判断された場合、裁判所は、公訴提起の手続きが違法なため公訴棄却の判決をしなければなりません(刑訴338条4号)。 

 

 本件公訴事実、日時・場所の点で幅のある記載がされています。そこで、どの程度の記載があれば訴因の特定が認められるかが問題になります。 

 

訴因の特定が要求されるのは、裁判所の審判範囲を特定するため(特定説)、そして、被告人の防御権に配慮して防御の範囲を示すため(防御権説)です。そうすると、訴因を特定するためには、犯行日時・場所等あらゆる事情を訴因に記載する必要があるように思われます。 

 

 しかし事案によっては、犯行の日時・場所捜査活動により事細かに特定することが困難な場合があります。そのため、訴因の特定の程度には何らかの制約があることは否めません。特に覚せい剤の自己使用事案は、犯行が密室で行われることが多いため、覚せい剤を使用したことは明らかだが、犯行がいつどこで行われたか正確に特定することが困難な場合があるとれます。 

 

覚せい剤を使用すると尿から覚せい剤が検出されその期間は、使用から10日間から14日間と言われます。そうすると、訴因に幅のある記載をしても、この期間内に少なくとも一回は覚せい剤を使用した、といった具合に審判範囲の特定がされ、防御権の範囲が示されたと見ることができます 

 

 最高裁は本件公訴事実の記載は訴因の特定に欠けることはないと判断しましたが、上記事情を考慮したと思われます。 

 

↓以下原文

「~本件公訴事実の記載は、日時、場所の表示にある程度の幅があり、かつ、使用量、使用方法の表示にも明確を欠くところがあるとしても、検察官において起訴当時の証拠に基づきできる限り特定したものである以上、覚せい剤使用罪の訴因の特定に欠けるところはないというべきである。 

 

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