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[解説] 訴因変更の要否①(公訴の提起):最高裁平成13年4月11日第三小法廷決定 

 

Point 
1.訴因変更の要否の判断基準を確立 

 

1.事案の概要  

被告人は、殺人その他多数の犯罪を犯したとして起訴されました。本件のうち殺人事件の公訴事実は「被告人は,Aと共謀の上,昭和63年7月24日ころ,青森市a所在の産業廃棄物最終処分場付近道路に停車中の普通乗用自動車内において,Bに対し,殺意をもってその頸部をベルト様のもので絞めつけ,そのころ窒息死させて殺害した」というものでした。 

 

しかし、その後、検察官が第1審係属中に訴因変更を請求し「被告人は,Aと共謀の上,前同日午後8時ころから 午後9時30分ころまでの間,青森市bc丁目所在の共済会館付近から前記最終処分場に至るまでの間の道路に停車中の普通乗用自動車内において,殺意をもって被告人が,Bの頸部を絞めつけるなどし,同所付近で窒息死させて殺害した」旨の事実に変更されました。 

 

この事実につき,第1審裁判所は,審理の結果,「被告人は,Aと共謀の上,前同日午後8時ころから翌25日未明までの間に,青森市内又はその周辺に停車中の自動車内において,A又は被告人あるいはその両名において,扼殺,絞殺又はこれに類する方法でBを殺害した」旨の事実を認定しました。 

 

(関連条文)  

刑事訴訟法256条1項 「公訴の提起は、起訴状を提出してこれをしなければならない。 

・同条2項 「起訴状には、左の事項を記載しなければならない。」 

1号 「被告人の氏名その他被告人を特定するに足りる事項」 

2号 「公訴事実」 

3号 「罪名」 

・同条3項 「公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。」 

・刑事訴訟法312条1項 「裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条の追加、撤回又は変更を許さなければならない。」  

・同条2項 「裁判所は、審理の経過に鑑み適当と認めるときは、訴因又は罰条を追加又は変更すべきことを命ずることができる。」

 

【争点】 

・本件第一審の事実認定は適法か 

 

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2.判旨と解説  

本件で第一審は、訴因に記載された実行行為者が被告人であるにもかかわらず、実行行為者を共犯者たるAまたは被告人あるいはその両名と認定しています。そこで、検察官による訴因変更を経ずに上記事実認定をすることが許されるかが問題となりました。 

 

 現行の刑事訴訟法は、検察官が訴因を設定し、裁判所がこれを審理するという制度となっています。そのため、訴因外の事実を裁判所は認定することができ、これを認定するには検察官による訴因変更をすることが必要であり、訴因外の事実を認定した場合には違法となると解することもできます 

 

 しかし、審理の結果、訴因とは異なる事実が明らかになった場合に、この事実を認定するには必ず訴因変更を要するとしたのでは、徒訴訟手続きを遅延させますしまた、被告人の迅速な裁判を受ける権利も侵害します。 

 

 訴因の機能は、裁判所に審判対象を特定させること、被告人の防御の範囲を明らかにする点にあります。裁判をするには裁判所から見て審判対象が特定されていることが大前提です。そのため、被告人の防御権配慮よりも審判対象の特定がまずは優先されるべきです 

 

 本件で最高裁は訴因変更の要否の基準を以下のものとしました。 

 

審判対象確定の見地から訴因変更が必要な場合には訴因変更を要する 

②上記見地から訴因変更が不要と解された場合でも、被告人の防御に重要な事項は、これが訴因に明示された場合、訴因変更が必要 

②で訴因変更を要するとした場合でも具体的な審理の経過に鑑み、被告人に不意打ちではなく、かつ不利益を与えない場合には、訴因変更が不要としました。 

 

 そして、最高裁は①について、殺人罪の共同正犯の訴因としては、誰が実行行為者であるかが明示されていなくても、審判対象確定の見地からは訴因変更は不要とします。もっとも、②実行行為者がであるかは、被告人の防御にとって重要な事項であるから、検察官がこれを訴因に明示した場合これと異なる事実を認定する場合、訴因変更を要するとします。 

 

実行行為者につき第1審判決が訴因変更手続を経ずに訴因と異なる認定をしたことに違法はないかについて検討する。訴因と認定事実とを対比すると,前記のとおり,犯行の態様と結果に実質的な差異がない上,共謀をした共犯者の範囲にも変わりはなく,そのうちのだれが実行行為者であるかという点が異なるのみである。そもそも,殺人罪の共同正犯の訴因としては,その実行行為者がだれであるかが明示されていないからといって,それだけで直ちに訴因の記載として罪となるべき事実の特定に欠けるものとはいえないと考えられるから,訴因において実行行為者が明示された場合にそれと異なる認定をするとしても,審判対象の画定という見地からは,訴因変更が必要となるとはいえないものと解される。とはいえ,実行行為者がだれであるかは,一般的に,被告人の防御にとって重要な事項あるから,当該訴因の成否について争いがある場合等においては,争点の明確化などのため,検察官において実行行為者を明示するのが望ましいということができ,検察官が訴因においてその実行行為者の明示をした以上,判決においてそれと実質的に異なる認定をするには,原則として,訴因変更手続を要するものと解するのが相当である。しかしながら,実行行為者の明示は,前記のとおり訴因の記載として不可欠な事項ではないから,少なくとも,被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし,被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ,かつ,判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には,例外的に,訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することも違法ではないものと解すべきである。   

 

 そうすると、本件で訴因変更をせずに実行行為者をAまたは被告人あるいはその両名と認定したことは違法なるかと思われます。しかし最高裁は、③について以下のように判示し、本件で訴因変更をせずに異なる事実認定をしたことは違法でないとしました。 

 

そこで,本件について検討すると,記録によれば,次のことが認められる。第1審公判においては,当初から,被告人とAとの間で被害者を殺害する旨の共謀が事前に成立していたか,両名のうち殺害行為を行った者がだれかという点が主要な争点となり,多数回の公判を重ねて証拠調べが行われた。その間,被告人は,Aとの共謀も実行行為への関与も否定したが,Aは,被告人との共謀を認めて被告人が実行行為を担当した旨証言し,被告人とAの両名で実行行為を行った旨の被告人の捜査段階における自白調書も取り調べられた。弁護人は,Aの証言及び被告人の自白調書の信用性等を争い,特に,Aの証言については,自己の責任を被告人に転嫁しようとするものであるなどと主張した。審理の結果,第1審裁判所は,被告人とAとの間で事前に共謀が成立していたと認め,その点では被告人の主張を排斥したものの,実行行為者については,被告人の主張を一部容れ,検察官の主張した被告人のみが実行行為者である旨を認定するに足りないとし,その結果,実行行為者がAのみである可能性を含む前記のような択一的認定をするにとどめた。以上によれば,第1審判決の認定は,被告人に不意打ちを与えるものとはいえず,かつ,訴因に比べて被告人にとってより不利益なものとはいえないから,実行行為者につき変更後の訴因で特定された者と異なる認定をするに当たって,更に訴因変更手続を経なかったことが違法であるとはいえない。

 

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