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【判例解説】訴因変更の要否②(公訴の提起):最高裁平成24年2月29日第二小法廷決

Last Updated on 2020年11月6日

 

Point 
1.本件事実認定は、被告人に不意打ちを与えるものであるから違法である。 

 

1.事案の概要 

 

本件公訴事実は以下のようなものです。 

 

「被告人は,借金苦等からガス自殺をしようとし て,平成20年12月27日午後6時10分頃から同日午後7時30分頃までの 間,長崎市内に所在するAらが現に住居に使用する木造スレート葺2階建ての当時の被告人方(総床面積約88.2㎡)1階台所において,戸を閉めて同台所を密閉させた上,同台所に設置されたガス元栓とグリル付ガステーブル(以下「本件ガスコンロ」という。)を接続しているガスホースを取り外し,同元栓を開栓して可燃性混合気体であるP13A都市ガスを流出させて同台所に同ガスを充満させたが, 同ガスに一酸化炭素が含まれておらず自殺できなかったため,同台所に充満した同ガスに引火,爆発させて爆死しようと企て,同日午後7時30分頃,同ガスに引火させれば爆発し,同被告人方が焼損するとともにその周辺の居宅に延焼し得ることを認識しながら,本件ガスコンロの点火スイッチを作動させて点火し,同ガスに引火,爆発させて火を放ち,よって,上記Aらが現に住居に使用する同被告人方を全焼させて焼損させるとともに,Bらが現に住居として使用する木造スレート葺2階建て居宅(総床面積約84.93㎡)の軒桁等約8.6㎡等を焼損させたものである」というものでした。 

 

第1審判決は,被告人が上記ガスに引火,爆発させた方法について,訴因の範囲内で,被告人が点火スイッチを頭部で押し込み,作動させて点火したと認定しました。 

 

これに対し、原判決はこのような被告人の行為を認定することはできないとして第1審判決を破棄しました。そして、訴因変更手続を経ずに被告人が「何らかの方法により」上記ガスに引火爆発させたと認定しました。 

 

(関連条文) 

・刑事訴訟法256条1項 「公訴の提起は、起訴状を提出してこれをしなければならない。」 

・同条2項 「起訴状には、左の事項を記載しなければならない。」 

1号 「被告人の氏名その他被告人を特定するに足りる事項」 

2号 「公訴事実」 

3号 「罪名」 

・同条3項 「公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。」 

・刑事訴訟法312条1項 「裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条の追加、撤回又は変更を許さなければならない。」 

・同条2項 「裁判所は、審理の経過に鑑み適当と認めるときは、訴因又は罰条を追加又は変更すべきことを命ずることができる。」 

 

【争点】  

・訴因変更をせずに、被告人の実行行為を「何らかの方法により」と認定することは適法か 

2.判旨と解説 

 

 訴因変更の要否について最高裁は以下の基準で判断することとしていま 

 

①審判対象確定の見地から訴因変更が必要な場合には訴因変更を要する 

②上記見地から訴因変更が不要と解された場合でも、被告人の防御に重要な事項は、これが訴因に明示された場合、訴因変更が必要 

③②で訴因変更を要するとした場合でも、具体的な審理の経過に鑑み、被告人に不意打ちではなく、かつ不利益を与えない場合には、訴因変更が不要としました。 

 

 本件でも、上記基準を用いて訴因変更をせずに訴因外の事実を認定したことが違法となるか否かを判断しました。 

 

 まず、実行行為の内容がいかなるものだったかについては、被告人の防御にとって重要な事項であるため、訴因と異なる認定をするためには、原則として訴因変更を要するとしました(②。①については問題とならないことを前提に判断しています。 

 

*訴因の特定に関する判例はこちら 

  

被告人が上記ガスに引火,爆発させた方法は,本件現住建造物等放火罪の実行行為の内容をなすものであって,一般的に被告人の防御にとって重要な事項であるから,判決において訴因と実質的に異なる認定をするには,原則として,訴因変更手続を要するが,例外的に,被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし,被告人に不意打ちを与えず,かつ,判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合に は,訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為を認定することも違法ではないと解される(最高裁平成11年(あ)第423号同13年4月11日第三小法廷決定・刑集55巻3号127頁参照)。 

 

 ②で訴因変更を要するとされても、具体的な訴訟の経過によっては、訴因変更を要しないとされます(③)。しかし本件原審の認定は、以下の事情から、被告人に不意打ちを与えるものであるから、違法であるとしました(もっとも原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められないとして、原判決を維持しました)。 

 

・被告人は、ガスに引火・爆発した原因は自分の行為ではないとしていた 

 

・検察官は、被告人がスイッチを作動させて

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