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【判例解説】民法110条の正当な理由➁:最判昭和44年6月24日 

Last Updated on 2022年11月7日

 

Point 
1.本人に代理人の代理権について容易に確かめることができた状況下で、代理人の説明を信じただけでは、民法110条の正当な理由があったとは言えない 

 

1.事案の概要 

 

Aは、Yから家屋を借りていました。Aは、その家屋の賃借権をXに譲り渡しました。 

 

ところでBは、Yの代理人として、Yが賃貸する家屋の賃料の取り立て及び受領の権限を有していましたが、賃借権の譲渡の承諾をする権限を有していませんでした。 

 

にもかかわらずBは、上記AX間の賃借権の譲渡についてYに代わり承諾しました。 

 

なお、Bの承諾に関して、以下の事情がありました。 

 

XはBから、Yから承諾を得ているとの説明を受けていた 

XはBの住所氏名を知っており、Xの住所からBとYの住所までの交通の便は良好で、の説明が真実であるかをYに容易に確かめることが可能であった 

・Xの入居後間もなく、Bは、Xに対し、Yの了解を得るまでAの標札を家屋に掲げておくよう指示した 

 

(関連条文)

・110条 「前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。 

 

2.判旨と解説 

 

*代理の解説はこちら 

*表見代理の解説はこちら 

 

 民法110条の表見代理が成立するには、当該行為につき代理人に代理権があることを信ずる正当な理由が必要です。正当な理由とは、善意無過失と同義と解されています。 

 

 「民法一一〇条にいう「正当ノ理由ヲ有セシトキ」とは、無権代理行為がされた当時存した諸般の事情を客観的に観察して、通常人において右行為が代理権に基づいてされたと信ずるのがもっともだと思われる場合、すなわち、第三者が代理権があると信じたことが過失とはいえない(無過失な)場合をいい、右諸般の事情には、本人の言動を含むものと解すべきである。 

 

 本件で最高裁は、先述した事情を指摘し、YにBの代理権の有無を容易に確かめることができ、また、Bに承諾の権限がないことを容易に知りえたのだから(Yの承諾があるまでは家屋の標札をAにしておくこととされていた)、BからYから代理権を授与されているとの説明を受けただけでは、Bに代理権が存在すると信じるにつき無過失とは言えないとしました。 

 

*本条の正当な理由につき判断した他の判例はこちら
 

 「これを本件についてみるに、原審が適法に確定した事実の要旨は、次のとおりである。すなわち、(1)訴外柴田源太郎(以下単に「訴外柴田」という。)は、本件家屋の賃貸人である被上告人の代理人として本件家屋の賃料の取立および受領の権限(以下「管理権」という。)しか有せず、被上告人の代理人として本件建物の賃借権譲渡の承諾をする権限を有していなかったところ、上告人が昭和二六年一二月頃本件家屋の賃借人である訴外越智通之(以下単に「訴外越智」という。)から本件家屋の賃借権を譲り受けるにあたり、右譲渡について承諾した(したがって、訴外柴田は、その代理人権限外の右承諾をした。)、(2)上告人は、当時訴外越智から被上告人の代理人である訴外柴田の右承諾を得た旨の説明を受けたに止まった、(3)上告人は、当時すでに訴外柴田の住所氏名をも知っており、上告人の住所から被上告人および訴外柴田の住所までの交通の便は極めて良好であり、上告人は、被上告人または訴外柴田に対し、右(2)の訴外越智の説明が真実であるか否かを容易に確め得た(もし、上告人が確めたならば、訴外柴田が本件家屋の賃借権譲渡の承諾をする代理権を有していなかったことが明白となった。)にもかかわらず、かかる措置を採らず、漫然と右(2)の訴外越智の説明を信じ、本件家屋の賃借権の譲渡について被上告人の承諾があったものと速断して.本件建物に入居した、(4)上告人の入居後間もなく、訴外柴田は、上告人に対し、上告人の賃借権譲渡については別段異議を唱えなかったが、賃貸人である被上告人の諒解を得るまで訴外越智の標札を本件家屋に掲げておくよう指示した、というのである。右(1)ないし(3)の事実によれば、上告人は、訴外越智から本件建物の賃借権を譲り受けるにあたり、本件家屋の管理権者にすぎない訴外柴田の承諾を得た旨の訴外越智の説明を受けただけで、容易に被上告人または訴外柴田について調査することができ、これによって訴外柴田には右承諾をする代理権のないことを知り得たにもかかわらず、かかる措置を採らず、漫然と訴外越智の右説明のみを信用し、訴外柴田には被上告人を代理して右承諾をする権限があると信じたものであるから、上告人が訴外柴田に右代理権があると信じたことは、上告人の過失であるといわざるを得ない。また、右(4)の事実によれば,上告人は、訴外柴田が被上告人を代理して本件家屋の賃借権譲渡の承諾をする権限を有しなかったことを容易に知り得たはずであるから、右(4)の事実によって、上告人が訴外柴田に右代理権があると信じたことは、上告人の過失であるといわなければならない。されば、いずれにしても、上告人には、訴外柴田に右代理権があると信ずるについて正当な理由があったとはいえない。 

 

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