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【判例解説】自白法則と違法収集証拠排除法則(証拠):東京高判平成14年9月4日

Last Updated on 2022年3月1日

 

Point 
1.自白法則と違法集証拠排除法則の関係 

 

1.事案の概要 

 

被告人は、殺人事件の被疑者として捜査対象となっていました。被害者は、被告人と共に生活していました。 

 

警察官らは、事件現場近くの自動車内で、被告人から簡単に事情を聴取した後、平成9年11月10日午前9時50分ころ、松戸警察署に任意同行しました。警察官は、17日まで被告人を参考人として警察署で取調べました。その後、被告人に対する嫌疑が濃厚となったので、18日からは被疑者として取調べ、19日午後には通常逮捕されました。 

 

取調べに際して警察官は、11月10日の任意同行以降、連日、朝から夜まで被告人を取り調べ、夜間は被告人を帰宅させていません。すなわち、最初の2日は被告人の長女が入院していた病院に、その次の2日間は警察が手配した警察官宿舎の婦警用の空室に、その後の5日間は松戸市内のビジネスホテルに被告人を宿泊させました。なお、被告人からは宿泊斡旋要望の書面などは出されていません。 

 

(関係法令)  

・刑事訴訟法197条1項 : 捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。 

・憲法38条2項 「強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。」  

・刑事訴訟法319条1項 「強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白は、これを証拠とすることができない」 

 

【争点】 

・本件の取調べは適法か 

・自白法則と違法集証拠排除法則はどのように適用されるか 

 

2.判旨と解説 

 

 弁護人の主張は、要約すると、①被告人の取調べは9泊10日の宿泊を伴うもので実質的には強制捜査であるから、違法なものである違法捜査により得た被告人の供述調書等は排除法則により、あるいは自白法則により排除されるべきといったものです。 

 

*強制処分法定主義の解説についてはこちら 

*任意捜査の原則についての解説はこちら 

*任意取調べの適法性について判断した判例についての解説はこちら 

 

 まず裁判所は、被告人の取調べの違法性について判断します。 

 

最初の2日間の取調べについては、以下の事情を指摘し、やむを得ない措置であり、宿泊先を探すための時間も必要なことから、長女のいた病院の病室にとりあえず同宿させたのは相当であったとします。 

 

①事件が殺人事件という重大なものであった 

②被害者の死体発見状況、被害者や被告人の日が今円公道状況等について解明するため被告人から事情を聴く必要性が高く、事情聴取に複数日を要する状況にあった 

③犯行場所が被告人の住居でもあった事から、現場保全の観点から家に帰すわけにはいかなかった 

④かといって、夫(別居中)の下に帰すのも相当でなかった(夫は、犯人は被告人である旨の供述をしており、在宅で事情聴取を受けていた) 

⑤被告人はホテル等に宿泊するだけの金銭を持っていなかった 

 

 「確かに、被告人は殺人という重大事件の重要参考人であり、捜査当局としては、被害者の死体発見の状況、被害者や被告人の被害前の行動状況、被害者・被告人各夫婦をめぐる紛争の内容等の多くの事項について事案の真相を解明するために、被告人から事情を緊急、詳細に聴取する必要性が高かった事情が認められ、その事情聴取に複数日を要する状況にあり、被告人を任意同行した翌日以降も(連日かどうかは別としても)在宅のまま事情聴取する必要性があったと認められた。ところが、本件は、被告人の同棲相手がその同棲住居で殺害された事案であって、現場の保全等の観点からは、被告人を犯行場所である住居に帰すわけには行かないこと、そうかといって夫のA方については、被告人は同人と別居中で、同人を本件の犯人であるかのように述べており、現に同人も重要参考人として在宅で事情聴取を受けていたから、同人方に帰すのも相当ではなかったこと、被告人がホテル等に宿泊するだけの金銭も持っていなかったことからすると、最初の二日間の宿泊については、やむを得ない措置であり、宿泊先を探すための時間も必要なことから、長女のいた病院の病室にとりあえず同宿させたのは相当であったと認められる。」 

 

 しかし、その後の経過を考えると、本件の捜査方法は社会通念に照らしてあまりにも行き過ぎであり、任意捜査の方法としてやむを得なかったものとはいえず、任意捜査として許容される限界を越えた違法なものであるとします(判旨は長いのでほとんど省略しています)。 

 

「~本件の捜査方法は社会通念に照らしてあまりにも行き過ぎであり、任意捜査の方法としてやむを得なかったものとはいえず、任意捜査として許容される限界を越えた違法なものであるというべきである。」 

 

 本件で問題となっている供述調書等は、任意取調べ最終日やその後の逮捕・勾留中に作成されたものです。したがって、これらは、違法な捜査により獲得したものとなります。加えて、被告人は逮捕直前まで極限な精神状態で取調べに応じていたわけですから、自白部分については、供述の任意性も問題となります。 

 

 ところで、自白が違法捜査により獲得された場合、自白法則と違法収集排除法則の双方が適用される余地があります。これらの法則の関係性はどのように考えればいいのでしょうか? 

 

 裁判所は、自白についても証拠物の場合と同様に、違法収集証拠排除法則を採用できない余地はないとします。そして、本件のように手続き過程が問題となるケースでは、まず違法収集証拠排除法則の適用を検討するべきとします。 

  

 「そして、自白を内容とする供述証拠についても、証拠物の場合と同様、違法収集証拠排除法則を採用できない理由はないから、手続の違法が重大であり、これを証拠とすることが違法捜査抑制の見地から相当でない場合には、証拠能力を否定すべきであると考える。また、本件においては、憲法三八条二項、刑訴法三一九条一項にいう自白法則の適用の問題(任意性の判断)もあるが、本件のように手続過程の違法が問題とされる場合には、強制、拷問の有無等の取調方法自体における違法の有無、程度等を個別、具体的に判断(相当な困難を伴う)するのに先行して、違法収集証拠排除法則の適用の可否を検討し、違法の有無・程度、排除の是非を考える方が、判断基準として明確で妥当であると思われる。」 

  

 そして、最終的に、供述調書等の証拠能力を否定しました。 

 

 「本件自白(乙三、四、六)は違法な捜査手続により獲得された証拠であるところ、本件がいかに殺人という重大事件であって被告人から詳細に事情聴取(取調べ)する必要性が高かったにしても、上記指摘の事情からすれば、事実上の身柄拘束にも近い九泊の宿泊を伴った連続一〇日間の取調べは明らかに行き過ぎであって、違法は重大であり、違法捜査抑制の見地からしても証拠能力を付与するのは相当ではない。本件証拠の証拠能力は否定されるべきであり、収集手続に違法を認めながら重大でないとして証拠能力を認めた原判決は、証拠能力の判断を誤ったものであるといわざるを得ない。」 

  

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