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【判例解説】実行の着手①(総論):最高裁昭和40年3月9日第二小法廷決定 

Last Updated on 2021年6月12日

 

Point 
1.本件事実関係のもとにおいては、被告人に窃盗罪の実行の着手がある 

 

1.事案の概要 

 

被告人は深夜、電気器具商である被害者方店舗内に窃盗目的で侵入しました。そして、所携の懐中電燈により真暗な店内を照らしたところ、電気器具類が積んであることを認めました。しかし、なるべく金を盗りたいので自己の左側に認めた煙草売場の方に行きかけた際、被害者らが帰宅しました。被害者が騒ぎ出したため、逮捕を免れるためにナイフで被害者の胸部を刺して死亡させ、被害者の妻にも暴行を加えました。 

(関連条文) 

・刑法235条 「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。 

・刑法243条 「第235条から第236条まで、第238条から第240条まで及び第241条第3項の罪の未遂は、罰する。 

 

【争点】 

・被告人に窃盗罪の実行の着手があるか 

2.判旨と解説 

 

*窃盗罪の解説はこちら 

 

*未遂犯の解説はこちら 

 

 本件で、被告人の目的であった窃盗は成功していません。そのため、被告人は窃盗既遂罪で処罰されることはありません。にもかかわらず、本件の争点は被告人に窃盗罪の実行の着手があったか否かです。なぜかというと、窃盗罪の実行の着手があるかどうかで、被告人の罪責が大きく異なるためです。 

 

①被告人に窃盗の着手があった場合、事後強盗罪の主体たる「窃盗」に該当する 

 

②逮捕免脱目的がある「窃盗」が暴行を加えたので、被告人に事後強盗罪が成立する 

 

③事後「強盗」の犯人が人を死傷させているので、被告人に事後強盗致死・致傷罪が成立する 

 

④仮に窃盗の着手がなかったとすると、被告人には傷害致死罪(被告人に殺意が無いため)傷害罪が成立するにとどまる 

 

*事後強盗罪の解説はこちら 

*強盗致死傷罪の解説はこちら 

 

 本件で被告人は、煙草売場の方に行きかけた際に被害者に見つかっています。つまり、物色行為をする以前に窃盗を断念せざるを得ない状況となってしまいました。 

 

 しかし、被告人には「なるべく金をとりたい」という意思で、すぐ近くの煙草売場に近づいており、煙草売場に行けばすぐに金銭の窃取をすることが可能です。そのため、その時点で窃盗罪の結果発生の現実的危険性が生じたといえます。 

 

結論として最高裁は、煙草売場に行きかけた時点で窃盗罪の実行の着手ありと判断した原判決を是認しました。 

 

「原判決が被告人に窃盗の着手行為があつたものと認め、刑法二三八条の「窃盗」犯人にあたるものと判断したのは相当である。」 

  

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