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1.本件訴因は暴行態様、傷害の内容、死因等の表示が概括的なものであるが、本件の事情の下では、訴因の特定に欠けるところはない |
1.事案の概要
検察官は、傷害致死事件につき、「被告人は,単独又はA及びBと共謀の上,平成9年9月30日午後8時30分ころ,福岡市中央区所在のビジネス旅館あさひ2階7号室において,被害者に対し,その頭部等に手段不明の暴行を加え,頭蓋冠,頭蓋底骨折等の傷害を負わせ,よって,そのころ,同所において,頭蓋冠,頭蓋底骨折に基づく外傷性脳障害又は何らかの傷害により死亡させた。」という訴因を追加しました。
(関連条文)
・刑事訴訟法256条1項 「公訴の提起は、起訴状を提出してこれをしなければならない。」
・同条2項 「起訴状には、左の事項を記載しなければならない。」
2号 「公訴事実」
・同条3項 「公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。」
・刑事訴訟法338条 「左の場合には、判決で公訴を棄却しなければならない。」
4号 「公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるとき。」
【争点】
・本件訴因は特定されているといえるか
2.判旨と解説
有罪判決に対し被告人は、この訴因は特定に欠けるため、公訴を棄却するべきと主張しました。
*起訴の解説はこちら
*訴因の特定についての解説はこちら
最高裁は、訴因は暴行態様、傷害の内容、死因等の表示が概括的なものであるが、これらにつき十分な内容の供述等が得られなかったのであるから、できる限り罪となるべき事実を特定して訴因を明示したものと認められるとして、訴因は特定されているとしました。
「原判決によれば,第1次予備的訴因が追加された当時の証拠関係に照らすと,被害者に致死的な暴行が加えられたことは明らかであるものの,暴行態様や傷害の内容,死因等については十分な供述等が得られず,不明瞭な領域が残っていたというのである。そうすると,第1次予備的訴因は,暴行態様,傷害の内容,死因等の表示が概括的なものであるにとどまるが,検察官において,当時の証拠に基づき,できる限り日時,場所,方法等をもって傷害致死の罪となるべき事実を特定して訴因を明示したものと認められるから,訴因の特定に欠けるところはないというべきである。したがって、これと同旨の原判決の判断は正当である。」