緊急避難(刑37条)は、正当防衛(刑36条)と並び行為の違法性を阻却するものです。緊急避難の制度趣旨について、違法性阻却事由説、責任阻却事由説、二元説で争いがあります。
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・刑法37条1項 「自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。」
緊急避難が成立するには、①現在の危難②避難の意思(必要説)③やむを得ずにした行為④害の均衡の要件を充足する必要があります。
「現在の危難」とは、侵害が存在している又は差し迫っている状態を言います。意味は正当防衛とほとんど同一ですが、正当防衛とは異なり、危難が不正のものである必要はありません。そのため、理論的には正当防衛に対する緊急避難も可能です。また、自然災害等人の行為によらない侵害も、これに含まれることに争いはありません。
また、正当防衛で防衛の意思必要説に立つ場合、緊急避難においても避難の意思必要説に立つことになると思われます。その場合、緊急避難の成立には避難の意思も要件となります。
次に、避難行為が「やむを得ずにした行為」である必要があります。これは、正当防衛におけるものとは異なり、他に侵害性の低い手段が存在しなかった(補充性の原則)ことが求められます。そのため、その場から逃げることが可能な場合、緊急避難行為として他人の権利を侵害することは正当化されません。この点で、「やむを得ずにした行為」の要件は、正当防衛におけるものよりも厳しくなっています。
最後に、緊急避難の成立には避難行為によって「生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった」こと(害の均衡)が求められます。これは、補充性を有する避難行為を行っても害の均衡を逸脱する場合には、緊急避難は成立せず過剰避難(刑37条1項但書)となってしまうことを意味します。