捜査機関は、場合によっては被疑者を逮捕・勾留するなどして、事件の捜査を行います。これを終えると、検察官は被疑者を起訴するか否かを判断します。起訴とは、刑事事件を犯したと疑われる被疑者を国家による裁判にかけることを言います。
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現行の刑事訴訟法は、起訴するか否かの判断権を市民ではなく国家機関である検察官に委ねています(刑訴247条、国家訴追主義)。
・刑事訴訟法247条 「公訴は、検察官がこれを行う。」
検察官は、発生した全ての事件を起訴する必要はありません。検察官は、様々な事情を考慮して起訴するか否かの判断を下します(刑訴248条、起訴便宜主義)。
・刑事訴訟法248条 「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。」
そのため、起訴すれば有罪が見込める事件を不起訴処分とすることや、一罪の一部起訴(強盗を窃盗、殺人を殺人未遂で起訴等)も、検察官の合理的な訴追裁量の範囲内であれば許されます。
公訴の提起は、起訴状を裁判所に提出して行います(刑訴256条1項)。起訴状には、被告人の氏名、公訴事実、罪名が記載されます(刑訴256条2項)。
・刑事訴訟法256条1項 「公訴の提起は、起訴状を提出してこれをしなければならない。」
・同条2項 「起訴状には、左の事項を記載しなければならない。」
・1号 「被告人の氏名その他被告人を特定するに足りる事項」
・2号 「公訴事実」
・3号 「罪名」
起訴状には、事件について裁判官に予断を生じさせるような書類等を添付、又はその内容を引用してはなりません(刑訴256条6項、起訴状一本主義)。これは、裁判官が事件につき心証を形成せずに最初の期日を迎えることで、公正な裁判を実現することを目的としています。
・刑事訴訟法256条6項 「起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞おそれのある書類その他の物を添附し、又はその内容を引用してはならない。」
公訴が提起されると、起訴状の謄本が被告人に送達されます(刑訴271条1項)。公訴の提起から二カ月以内に被告人の基に起訴状謄本が送達されない場合、公訴の提起は効力を失います(同条2項)。
・刑事訴訟法271条1項 「裁判所は、公訴の提起があったときは、遅滞なく起訴状の謄本を被告人に送達しなければならない。」
・2項 「公訴の提起があった日から二箇月以内に起訴状の謄本が送達されないときは、公訴の提起は、さかのぼってその効力を失う。」
公訴が提起されると、その事件について時効の進行が停止します(刑訴254条1項)。また、公訴が提起された場合、同一の事件について起訴することはできません(刑訴338条)。
・刑事訴訟法254条1項 「時効は、当該事件についてした公訴の提起によってその進行を停止し、管轄違又は公訴棄却の裁判が確定した時からその進行を始める。」
・刑事訴訟法338条 「左の場合には、判決で公訴を棄却しなければならない」
・3号 「公訴の提起があった事件について、更に同一裁判所に公訴が提起されたとき。」
検察官は、第一審の判決があるまでは公訴を取り消すことができます(刑訴257条1項)。一度公訴を取り消した場合、事件を再度起訴することは制限されます(刑訴340条)。
・刑事訴訟法257条1項 「公訴は、第一審の判決があるまでこれを取り消すことができる。」
・刑事訴訟法340条 「公訴の取消による公訴棄却の決定が確定したときは、公訴の取消後犯罪事実につきあらたに重要な証拠を発見した場合に限り、同一事件について更に公訴を提起することができる。」