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[解説] 加持祈禱治療事件(信教の自由):最高裁昭和38年5月15日大法廷判決

Last Updated on 2022年3月15日

Point 
1.信教の自由(憲法20条)は、公共の福祉(憲法12条、13条)により制限される 

1.事案の概要 

Xは、病人等の求めに応じて加持祈祷により病気を治癒させる仕事をしていました。ある日、Aの母親からAが異常な行動をするようになったので治癒して欲しいと頼まれました。Xは、Aに狸が憑いており、「線香護摩」と呼ばれる加持祈祷によってAから狸を追い出すしか方法はないと考えました。「線香護摩」は、嫌がるAに線香の火に当たらせたり殴ったりするもので、「線香護摩」の結果、Aは死亡しました。 

 

(関連条文) 

・憲法12条:この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。 

・憲法13条:すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。 

・憲法20条 

 1.信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。 

  2.何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。 

 

【争点】 

・信教の自由(憲法20条)は公共の福祉(憲法12条、13条)による制限を受けるか 

・宗教行為で人を死に至らしめた者を傷害致死罪で処罰するのは、憲法20条1項に反するか 

 

2.判旨と解説 

※以下は判旨と解説になりますが、まず黒枠内で判決についてまとめたものを記載し、後の「」でその部分の判決文を原文のまま記載しています。解説だけで十分理解できますが、法律の勉強のためには原文のまま理解することも大切ですので、一度原文にも目を通してみることをお勧めします。

 

まず、最高裁は、憲法20条1項・2項の定める信教の自由は、基本的人権の一つとして極めて重要なものである、とします。しかし、基本的人権はこれを濫用してはならず、また、憲法12条、13条の規定は教訓的規定というべきものではなく、従って信教の自由の保障も絶対無制限のものではない、とします。

 

「…憲法二〇条一項は信教の自由を何人に対してもこれを保障することを、同二項は何人も宗教上の行為、祝典、儀式または行事に参加することを強制されないことを規定しており、信教の自由が基本的人権の一として極めて重要なものであることはいうまでもない。しかし、およそ基本的人権は、国民はこれを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負うべきことは憲法一二条の定めるところであり、また同一三条は、基本的人権は、公共の福祉に反しない限り立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする旨を定めており、これら憲法の規定は、決して所論のような教訓的規定というべきものではなく、従つて、信教の自由の保障も絶対無制限のものではない。」 

 

次に、本件行為は、以下の理由から、憲法20条1項の信教の自由の保障の限界を逸脱したものであるとします。そのため、Xの本件行為を刑法205条に該当するものとして処罰したことは、何ら憲法の右条項に反するものではない、としました。 

①Xの行為は、Aの精神異常平癒を祈願するために線香護摩による加持祈祷として行われたが、Xが線香護摩をするに至った動機、手段、方法、暴行の程度等は医療上一般に承認された精神異常者に対する治療行為とは到底認め得ない 

②そうすると、Xの本件行為は一種の宗教行為としてなされたものであったとしても、他人の生命、身体等に危害を及ぼす違法な有形力の行使に当るものであり、Aが死に至った以上、著しく反社会的なものである 

 

「これを本件についてみるに、…被告人の本件行為は、被害者Aの精神異常平癒を祈願するため、 線香護摩による加持祈祷の行としてなされたものであるが、被告人の右加持祈祷行為の動機、手段、方法およびそれによつて右被害者の生命を奪うに至つた暴行の程度等は、医療上一般に承認された精神異常者に対する治療行為とは到底認め得ないというのである。しからば、被告人の本件行為は、所論のように一種の宗教行為としてなされたものであつたとしても、それが前記各判決の認定したような他人の生命、身体等に危害を及ぼす違法な有形力の行使に当るものであり、これにより被害者を死に致したものである以上、被告人の右行為が著しく反社会的なものであることは否定し得ないところであつて、憲法二〇条一項の信教の自由の保障の限界を逸脱したものというほかはなく、これを刑法二〇五条に該当するものとして処罰したことは、何ら憲法の右条項に反するものではない。」 

 

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