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1.公務員に政治的行為の自由(憲法21条)は保障される 2.公務員の政治的行為は、公務員が全体の奉仕者(憲法15条2項)ゆえに、合理的で必要やむをえない限度の制限が許容される。 3.②の判断においては、禁止の目的、目的と禁止される政治的行為の関連性、政治的行為を禁止することによる利益と禁止することにより失われる利益を比較考量することが必要 |
1.事案の概要
Xは郵便局の事務官でした。Xは衆議院選挙の際、日本社会党を支持する目的で同党の公認候補者の選挙用ポスターを公営の掲示場に掲示したほか、同ポスター合計約184枚の掲示を他人に依頼して配布しました。この行為が、国家公務員法102条1項の委任を受けた人事院規則に違反するとして起訴されました。
(関連条文)
・国家公務員法第 102 条:職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるい は選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。
・人事院規則5項3号:特定の政党その他の政治的団体を支持し又はこれに反対すること。
・人事院規則6項13号:政治的目的を有する署名又は無署名の文書、図画、音盤又は形象を発行し、回覧に供し、掲示し若しくは配布し又は多数の人に対して朗読し若しくは聴取させ、あるいはこれらの用に供するために著作し又は編集すること。
2.判旨と解説
※以下は判旨と解説になりますが、まず黒枠内で判決についてまとめたものを記載し、後の「」でその部分の判決文を原文のまま記載しています。解説だけで十分理解できますが、法律の勉強のためには原文のまま理解することも大切ですので、一度原文にも目を通してみることをお勧めします。
「憲法二一条の保障する表現の自由は、民主主義国家の政治的基盤をなし、国民の基本的人権のうちでもとりわけ重要なものであり、法律によつてもみだりに制限することができないものである。そして、およそ政治的行為は、行動としての面をもつほかに、政治的意見の表明としての面をも有するものであるから、その限りにおいて、憲法二一条による保障を受けるものであることも、明らかである。」
「…ところで、国民の信託による国政が国民全体への奉仕を旨として行われなければならないことは当然の理であるが、「すべて公務員は、全体奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。」とする憲法一五条二項の規定からもまた、 公務が国民の一部に対する奉仕としてではなく、その全体に対する奉仕として運営されるべきものであることを理解することができる。公務のうちでも行政の分野におけるそれは、憲法の定める統治組織の構造に照らし、議会制民主主義に基づく政治過程を経て決定された政策の忠実な遂行を期し、もつぱら国民全体に対する奉仕を旨とし、政治的偏向を排して運営されなければならないものと解されるのであつて、そのためには、個々の公務員が、政治的に、一党一派に偏することなく、厳に中立の立場を堅持して、その職務の遂行にあたることが必要となるのである。すなわち、行政の中立的運営が確保され、これに対する国民の信頼が維持されることは、憲法の要請にかなうものであり、公務員の政治的中立性が維持さることは、国民全体の重要な利益にほかならないというべきである。」
「したがつて、公務員の政治的中立性を損うおそれのある公務員の政治的行為を禁止することは、それが合理的で必要やむをえない限度にとどまるものである限り、憲法の許容するところであるといわなければならない。」
公務員に対する政治的行為の禁止が上記の合理的で必要やむをえない限度にとどまるものか否かを判断するには、
①目的の合理性
②目的と手段の合理的関連性
③比較考量
の三点から検討することが必要であるとします。 これは、猿払基準と呼ばれます。この基準は他の判例でもたびたび用いられることになります。
「国公法一〇二条一項及び規則による公務員に対する政治的行為の禁止が右の合理的で必要やむをえない限度にとどまるものか否かを判断するにあたつては、禁止の目的、この目的と禁止される政治的行為との関連性、政治的行為を禁止することにより得られる利益と禁止することにより失われる利益との均衡の三点から検討することが必要である。」とします。
猿払事件②はこちら