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[解説] 女子若年定年制事件(憲法の私人間適用Ⅲ):最高裁昭和56年3月24日第三小法廷判決

Last Updated on 2020年4月19日

Point 
1.憲法14条1項の平等原則を民法90条の公序に取り入れた 

1.事案の概要 

 Xは女性で、Y会社に勤めており、来月で50歳となります。Y会社は就業規則で「男子満55歳、女子満50歳で定年とする」規定が置かれていました。50歳になるXに対し、Yは退職を命ずる予告を行いました。そこで、Xは雇用関係存続確認等の訴えを提起しました。 

2.判旨と解説 

※以下は判旨と解説になりますが、まず黒枠内で判決についてまとめたものを記載し、後の「」でその部分の判決文を原文のまま記載しています。解説だけで十分理解できますが、法律の勉強のためには原文のまま理解することも大切ですので、一度原文にも目を通してみることをお勧めします。   

 

最高裁は、原審で以下の事実が認定されたため、本件男女の定年年齢の定めは、性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法九〇条の規定により無効であると解するのが相当である(憲法一四条一項、 民法一条ノ二参照)としました。

①原審では、女子従業員の担当職種、男女従業員の勤続年数、高齢女子労働者の労働能力等の諸般の事情を検討した上で、その全体を上告会社に対する貢献度の上がらない従業員と断定する根拠はないこと

②女子従業員について労働の質量が向上しないのに実質賃金が上昇するという不均衡が生じていると認めるべき根拠はない

③少なくとも六〇歳前後までは、男女とも通常の職務であれば企業経営上要求される職務遂行能力に欠けるところはなく一律に従業員として不適格とみて企業外へ排除するまでの理由はない

④原審では、以上①〜③のように、上告会社の企業経営上の観点から定年年齢において女子を差別しなければならない合理的理由は認められない旨認定判断したものである

 

「…上告会社の就業規則は男子の定年年齢を六〇歳、女子の定年年齢を五五歳と規定しているところ、右の男女別定年制に合理性があるか否かにつき、原審は、上告会社における女子従業員の担当職種、男女従業員の勤続年数、高齢女子労働者の労働能力、定年制の一般的現状等諸般の事情を検討したうえ、上告会社においては、女子従業員の担当職務は相当広範囲にわたつていて、従業員の努力と上告会社の活用策いかんによつては貢献度を上げうる職種が数多く含まれており、女子従業員各個人の能力等の評価を離れて、その全体を上告会社に対する貢献度の上がらない従業員と断定する根拠はないこと、しかも、女子従業員について労働の質量が向上しないのに実質賃金が上昇するという不均衡が生じていると認めるべき根拠はないこと、少なくとも六〇歳前後までは、男女とも通常の職務であれば企業経営上要求される職務遂行能力に欠けるところはなく、各個人の労働能力の差異に応じた取扱がされるのは格別、一律に従業員として不適格とみて企業外へ排除するまでの理由はないことなど、上告会社の企業経営上の観点から定年年齢において女子を差別しなければならない合理的理由は認められない旨認定判断したものであり…。そうすると、原審の確定した事実関係のもとにおいて、上告会社の就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は、専ら女子であることのみを理由として差別したことに帰着するものであり、性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法九〇条の規定により無効であると解するのが相当である(憲法一四条一項、 民法一条ノ二参照)。」

 

(まとめ)

最高裁は、憲法が私人間の関係に適用されるかにつき間接適用説に立っているとされます。本件は、最高裁が初めて私人間の関係を判断するにあたり、憲法の人権規定を参照した判例です。この判例は、憲法14条1項の平等原則が民法90条の公序となりうることを明らかにしていると解されています。そして、具体的な事情を基に、公序をなす平等原則(不合理な差別か否かを検討する)に反するかを判断しています。 

 憲法の私人間適用に関する判例として、他に三菱樹脂事件昭和女子大事件があります。

 

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