【判例解説】接見設備がない場所での接見(捜査):最判平成17年4月19日

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Point 
1.被疑者の逃亡や罪証の隠滅を防止することができ、戒護上の支障が生じないような設備のある部屋等が存在しない場合には、接見の申出を拒否したとしても違法ということはできない 

2.上記の設備のある部屋等が存在しないことを理由として接見の申出を拒否したにもかかわらず、弁護人等がなお即時の接見を求め、即時に接見をする必要性が認められる場合には、秘密交通権が十分に保障されないような態様の短時間の接見であってもよいかどうかという点につき、弁護人等の意向を確かめ、弁護人等がそのような面会接見であっても差し支えないとの意向を示したときは、面会接見ができるように特別の配慮をすべき義務がある 

 

1.事案の概要 

(1)接見拒否1 

 

 平成4年2月24日、非現住建造物等放火罪を被疑事実として、被疑者が逮捕されました。そして、26日から留置場にて勾留されることになりました。3月5日に地裁は、勾留場所を少年鑑別所に変更しました。 

 

 同日、被上告人である弁護士Xは、被疑者が地検での取調べのため待機中であることを知ったので、午後2時20分ごろ、検事に被疑者との接見を申し出ました(勾留場所が変更されたことを伝えて、被疑者を元気づけようと急いでいた)。 

 

 午後2時30分ごろ、検事は、➀庁舎内での接見は、設備が無いのでできないこと、②被疑者は接見指定がされていないため、接見設備がある場所での接見はいつでも可能なので、被疑者との接見交通には何ら支障がないこと、を伝えました。Xはこれに対し異議を述べましたが、検事は多忙を理由に話を終わらせました。 

 

 Xは地検へ行き、午後2時35分ごろ、検事の執務室にて、再び被疑者との接見を申し出ました。しかし、検事は先ほど述べたことと同じようなことを述べました。Xは、執務室から出てきた事務官に対し、取調べまでには時間があるから今すぐ会わせてほしい、また、接見場所について問題があるならば被疑者が待機中の部屋や執務室、裁判所の勾留質問室でもよいと申し出ました。結局、この点については回答がなく、Xは一度庁舎から去りました。その後被疑者は、午後3時15分ごろから午後5時45分ごろまで取調べを受けました。 

 

被疑者は取調べ後に少年鑑別所に移送され、Xは午後7時30分ごろから約30分間、被疑者と接見しました。 

 

(2)接見拒否2 

  

 被疑者は、3月16日に釈放されましたが、同日、別件の現住建造物等放火罪を被疑事実として逮捕されました。Xは17日午前9時ごろから警察署にて被疑者と接見しましたが、すぐに公判の予定があったため6分間で終わりました。被疑者はこの事件について弁護人選任届をXに提出しておらず、また被疑事実についても否認していました。

 

 そこでXは ➀弁護人選任届を受領する必要がある、また、②黙秘権について教示する必要がある、と考えました。そこで、18日午前9時ころ、警察署において接見を申し入れました。しかし、被疑者は地検に移送されていたので、地検に向かい、午前10時5分ごろ、地検の係長に庁舎内での接見を申し出ました。 

 

 係長は検事に接見の申出について伝えたところ、検事は庁舎内には接見の設備が無いので接見ができない、また当該地域の弁護士会も了承しているとXに伝えました。Xはその後も数回、係長を通して検事に接見を申し出ましたが、これは受け入れられませんでした。 

 

 午後4時ころ、Xは被疑者と、地方裁判所の接見室内において接見をしました。 

 

(関連条文) 

・刑事訴訟法39条1項 「身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあつては、第三十一条第二項の許可があつた後に限る。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。」 

・刑事訴訟法39条3項 「検察官、検察事務官又は司法警察職員(司法警察員及び司法巡査をいう。以下同じ。)は、捜査のため必要があるときは、公訴の提起前に限り、第一項の接見又は授受に関し、その日時、場所及び時間を指定することができる。但し、その指定は、被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであつてはならない。」

 

【争点】 

 ・検事がした接見拒否は適法か 

 

2.判旨と解説 

 

 Xは、接見拒否1・2は共に違法であるとして、国家賠償請求*をしました。

*接見交通権の解説はこちら 

*なお、本件で検察官が行った措置は、厳密な意味での接見指定には当たりません。接見指定は、 「捜査のため必要があるとき」にされるものですが、本件接見拒否は、適した設備がないことを理由としてされた、事実上の措置であるためです。本件は国家賠償請求ですから良いですが、これが、接見拒否処分を争い、接見を求めようとした場合に困ったことになります。というのも、接見指定に対しては準抗告(刑事訴訟法429条、430条)ができますが、本件のような接見拒否が接見指定に当たらないとすると、不服申立ての制度は存在しないこととなるためです(とはいえ、そもそもこのような接見拒否は、ある程度の時間があれば解消されるのが通常である、つまり、接見設備がない場所に被疑者が長期間とどまることはないため、国家賠償以外で争われることは、あまり想定できないですが)。空想上の話ですが、仮に、接見をしたいのならば、本件のような措置も、接見指定に当たるとして、430条を適用し、準抗告を認めるということになりそうです。

 

 

 

 最高裁は、接見を認めると捜査に顕著な支障が生ずる場合には、刑訴法39条3項の「捜査のために必要があるとき」の要件を満たすので、この場合に、接見の申出に応じなくても違法ではないことを確認します(最大判平成11年3月24日)。一方、取調べが予定されていても、開始までに時間があるときや、取調べが終わり勾留場所へ移送されるまでに時間があるときなどは、接見の申出に応じるべきとします。 

 

「被疑者が,検察官による取調べのため,その勾留場所から検察庁に押送され,その庁舎内に滞在している間に弁護人等から接見の申出があった場合には,検察官が現に被疑者を取調べ中である場合や,間近い時に上記取調べ等をする確実な予定があって,弁護人等の申出に沿った接見を認めたのでは,上記取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合など,捜査に顕著な支障が生ずる場合には,検察官が上記の申出に直ちに応じなかったとしても,これを違法ということはできない(最高裁平成5年(オ)第1189号同11年3月24日大法廷判決・民集53巻3号514頁参照)。しかしながら,検察庁の庁舎内に被疑者が滞在している場合であっても,弁護人等から接見の申出があった時点で,検察官による取調べが開始されるまでに相当の時間があるとき,又は当日の取調べが既に終了しており,勾留場所等へ押送されるまでに相当の時間があるときなど,これに応じても捜査に顕著な支障が生ずるおそれがない場合には,本来,検察官は,上記の申出に応ずべきものである。」 

 

 このように、接見の申出がある場合には、捜査機関はこれに応じることが原則で、「捜査のために必要があるとき」には、例外的に、接見指定をすることができます。しかし、本件で接見拒否がされたのは、「捜査のために必要が」あったためでなく、庁舎内に接見設備がなかったためです。 

 

 この点最高裁は、庁舎内に被疑者の逃亡や罪証隠滅の恐れを防止でき戒護上の支障が生じないような設備がある部屋(接見室等の接見のための専用の設備がある部屋に限られるものではない)が存在しない場合には、接見の申出を拒否しても違法とは言えないとします。 

 

 そして、このような設備のある部屋とは、接見の申出を受けた検察官が,その部屋を接見のためにも用いることができることを容易に想到することができ、また、その部屋を接見のために用いても、被疑者の逃亡、罪証の隠滅及び戒護上の支障の発生の防止の観点からの問題が生じないことを容易に判断し得るような部屋でなければならないとします。 

 

「もっとも,被疑者と弁護人等との接見には,被疑者の逃亡,罪証の隠滅及び戒護上の支障の発生の防止の観点からの制約があるから,検察庁の庁舎内において,弁護人等と被疑者との立会人なしの接見を認めても,被疑者の逃亡や罪証の隠滅を防止することができ,戒護上の支障が生じないような設備のある部屋等が存在しない場合には,上記の申出を拒否したとしても,これを違法ということはできない。そして,上記の設備のある部屋等とは,接見室等の接見のための専用の設備がある部屋に限られるものではないが,その本来の用途,設備内容等からみて,接見の申出を受けた検察官が,その部屋等を接見のためにも用い得ることを容易に想到することができ,また,その部屋等を接見のために用いても,被疑者の逃亡,罪証の隠滅及び戒護上の支障の発生の防止の観点からの問題が生じないことを容易に判断し得るような部屋等でなければならないものというべきである。」 

 

 本件で被疑者が拘束されていた庁舎内には、接見のための専用の設備を備えた部屋等はなかったので、接見拒否1・2は直ちに違法とは言えないとします。 

 

 「上記の見地に立って,本件をみるに,前記の事実関係によれば,広島地検の庁舎内には接見のための設備を備えた部屋は無いこと,及び庁舎内の同行室は,本来,警察署の留置場から取調べのために広島地検に押送されてくる被疑者を留置するために設けられた施設であって,その場所で弁護人等と被疑者との接見が行われることが予定されている施設ではなく,その設備面からみても,被上告人からの申出を受けたB検事が,その時点で,その部屋等を接見のために用い得ることを容易に想到することができ,また,その部屋等を接見のために用いても,被疑者の逃亡,罪証の隠滅及び戒護上の支障の発生の防止の観点からの問題が生じないことを容易に判断し得るような部屋等であるとはいえないことが明らかである。したがって,広島地検の庁舎内には,弁護人等と被疑者との立会人なしの接見を認めても,被疑者の逃亡や罪証の隠滅を防止することができ,戒護上の支障が生じないような設備のある部屋等は存在しないものというべきであるから,B検事がそのことを理由に被上告人からの接見の申出を拒否したとしても,これを直ちに違法ということはできない。」 

 

 しかし、最高裁は続けて、刑訴法39条1項の接見拒否が違法でないとしても、同条の趣旨からすると、上記設備のある部屋がないことを告げてもなお、弁護士が接見を求め、接見する必要性が認められるならば、秘密交通権が保障されない態様の短期間の接見(面会接見)であってもよいかについて弁護士に確認し、弁護士が差し支えないと意向を示したら面会接見ができるよう特別の配慮をする義務があるとします。 

 

 刑訴法39条1項が保障しているのは立会人無くして接見をすることであり、立会人付の接見については同条が直接定めるところではありません。しかし、同条の趣旨に鑑みると、接見の申出を受けた捜査機関としては、即時に接見をする必要があり、かつ、弁護人が短時間かつ立会人付の接見等でもよいとするならば、立会人付の接見等を実現するために配慮すべきということです。 

 

「しかしながら,上記のとおり,刑訴法39条所定の接見を認める余地がなく,その拒否が違法でないとしても,同条の趣旨が,接見交通権の行使と被疑者の取調べ等の捜査の必要との合理的な調整を図ろうとするものであること(前記大法廷判決参照)にかんがみると,検察官が上記の設備のある部屋等が存在しないことを理由として接見の申出を拒否したにもかかわらず,弁護人等がなお検察庁の庁舎内における即時の接見を求め,即時に接見をする必要性が認められる場合には,検察官は,例えば立会人の居る部屋での短時間の「接見」などのように,いわゆる秘密交通権が十分に保障されないような態様の短時間の「接見」(以下,便宜「面会接見」という。)であってもよいかどうかという点につき,弁護人等の意向を確かめ,弁護人等がそのような面会接見であっても差し支えないとの意向を示したときは,面会接見ができるように特別の配慮をすべき義務があると解するのが相当である。そうすると,検察官が現に被疑者を取調べ中である場合や,間近い時に取調べをする確実な予定があって弁護人等の申出に沿った接見を認めたのでは取調べが予定どおり開始できなくなるおそれがある場合など,捜査に顕著な支障が生ずる場合は格別,そのような場合ではないのに,検察官が,上記のような即時に接見をする必要性の認められる接見の申出に対し,上記のような特別の配慮をすることを怠り,何らの措置を執らなかったときは,検察官の当該不作為は違法になると解すべきである。」 

 

 最高裁は、接見拒否1・2共に違法であるとします。ただ、本件は国家賠償請求訴訟なので、検察官の不作為が違法であるとしても、その不作為に過失が認められなければ請求は認められません。この点、①当時は、本件のように、接見を可能とする設備のある部屋が存在しない場合について、参考となる裁判例や学説が存在しなかったこと②最高裁が上で示した特別の配慮をする義務等は、検察官の職務行為の基準として確立されたものではなく、むしろ地検は庁舎内の接見はできないとの立場をとっていたこと③②について事件以前に当地方の弁護士に説明していたとして、過失を否定しました。 

 

「これを本件接見の拒否(1)についてみるに,前記の事実関係によれば,〔1〕被上告人は,担当のB検事に対し,平成4年3月5日午後2時20分ころ,本件執務室に電話をして本件被疑者との接見の申出をし,同検事から,広島地検の庁舎内には接見のための設備が無いことを理由に接見を拒否されるや,直ちに広島地検に出向き,同日午後2時35分ころ,本件執務室において,直接,同検事に対して接見の申出をしたが,同様の理由により拒否されたこと,〔2〕その際,被上告人は,C事務官に対し,取調べまで時間があるはずなので今すぐに会わせてほしい旨,及び接見の場所は本件被疑者が現在待機中の部屋でもよいし,本件執務室でもよい,戒護の面で問題があるなら,裁判所の勾留質問室を借りてそこで会わせてほしい旨の申入れをしたが,B検事は,この申入れに対し,何らの配慮をせず,回答もしなかったこと,〔3〕本件被疑者は代用監獄である可部警察署の留置場において勾留されていたが,弁護人に選任された被上告人からの準抗告に基づき,前同日,勾留場所が少年鑑別所に変更されたこと,被上告人は,本件被疑者に対し,できる限り早くそのことを伝えて元気づけようと考え,接見を急いでいたこと,〔4〕B検事が本件被疑者の取調べを開始したのは,同日午後3時15分ころであって,被上告人が広島地検庁舎内でした接見申出の時から約40分ほどの時間があり,ごく短時間の接見であれば,これを認めても捜査に顕著な支障が生ずるおそれがあったとまではいえないこと等が明らかである。以上の諸点に照らすと,被上告人の上記接見の申出には即時に接見をする必要性があるものというべきであり,その際,被上告人が,接見の場所は本件被疑者が現在待機中の部屋(同行室のことと思われる。)でもよいし,本件執務室でもよいから,すぐに会わせてほしい旨の申出をしているのに,B検事が,立会人の居る部屋でのごく短時間の面会接見であっても差し支えないかどうかなどの点についての被上告人の意向を確かめることをせず,上記申出に対して何らの配慮もしなかったことは,違法というべきである。」 

 

「次に,本件接見の拒否(2)についてみるに,前記の事実関係によれば,〔1〕本件被疑者は,平成4年3月16日,第1被疑事件については処分保留のまま釈放されたが,同日,第2被疑事件で再逮捕されたこと,〔2〕被上告人は翌17日午前に本件被疑者と可部警察署において約6分間程度の接見をしたが,本件被疑者はその時点で被疑事実を否認しており,被上告人としては,再度黙秘権について教示する必要があると考え,また,いまだ第2被疑事件についての弁護人選任届を本件被疑者から受領していないことから,翌18日午前10時5分ころ,広島地検に赴き,本件被疑者との接見の申出をしたが,B検事は,前記と同様の理由により拒否したこと,〔3〕被上告人は,これに納得せず,本件被疑者から弁護人選任届を受領していないことから接見の必要があるなどと主張して再度の接見の申出をし,さらに,同日午前10時50分ころには,他の弁護士と共に本件執務室を訪れ,B検事に対し,本件被疑者との即時の接見を申し出たが,同検事は,これらの申出に対し,何らの配慮をせず,前記と同様の理由により拒否したこと,〔4〕B検事が本件被疑者から弁解の聴取を開始したのは,被上告人が広島地検の庁舎内において最初の接見の申出をした時点から約1時間40分後であり,また,上記弁解の聴取が終了した時点から本件被疑者が広島地裁に押送されるまでには4時間近くの時間があり,その間,本件被疑者は広島地検の庁舎内において待機していたのであるから,短時間の接見であれば,これを認めても捜査に顕著な支障が生ずるおそれがあったとは到底いえないこと等が明らかである。以上の諸点に照らすと,被上告人の上記接見の申出には即時に接見をする必要性があるものというべきであり,その際,被上告人が,本件被疑者から弁護人選任届を受領していないことから接見の必要があるなどと主張して即時の接見の申出をしているのに,B検事が,立会人の居る部屋での短時間の面会接見であっても差し支えないかどうかなどの点についての被上告人の意向を確かめることをせず,上記申出に対して何らの配慮もしなかったことは,違法というべきである。」 

 

「以上のとおり,B検事が,被上告人の上記各接見の申出に対し,面会接見に関する配慮義務を怠ったことは違法というべきであるが,本件接見の拒否(1),(2)は、それ自体直ちに違法とはいえない上,これらの接見の申出がされた平成4年当時,検察庁の庁舎内における接見の申出に対し,検察官が,その庁舎内に,弁護人等と被疑者との立会人なしの接見を認めても,被疑者の逃亡や罪証の隠滅を防止することができ,戒護上の支障が生じないような設備のある部屋等が存在しないことを理由に拒否することができるかという点については,参考となる裁判例や学説は乏しく,もとより,前記説示したような見解が検察官の職務行為の基準として確立されていたものではなかったこと,かえって,前記の事実関係によれば,広島地検では,接見のための専用の設備の無い検察庁の庁舎内においては弁護人等と被疑者との接見はできないとの立場を採っており,そのことを第1審強化方策広島地方協議会等において説明してきていること等に照らすと,B検事が上記の配慮義務を怠ったことには,当時の状況の下において,無理からぬ面があることを否定することはできず,結局,同検事に過失があったとまではいえないというべきである。」 

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