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1.死後も委任契約が存続する旨の契約は有効 |
1.事案の概要
入院中のAは、預金通帳、印章、現金をXに交付しました。そして、A自らの入院費用、死後の葬式費用、入院中に世話になった者への謝礼金の支払等を依頼する契約を、Xと結びました(委任契約)。Aの死後、Xは、その依頼に沿って、上記各種の支払いをしました。
Aの相続人たるYは、Xの支払いは不法行為となるなど主張して、金銭の支払いを求める訴訟を提起しました。
(関連条文)
・民法99条1項 「代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。」
・民法111条1項 「代理権は、次に掲げる事由によって消滅する。」
1号 「本人の死亡」
・2項 「委任による代理権は、前項各号に掲げる事由のほか、委任の終了によって消滅する。」
・民法653条 「委任は、次に掲げる事由によって終了する。」
1号 「委任者又は受任者の死亡」
2.判旨と解説
*代理の解説はこちら
AはXと委任契約を締結しています。その内容は、Aの入院費用のほか、Aの死後に各種の支払いをXに委任するものでした。
しかし、民法653条によると、委任者の死亡により委任契約は終了し、また、民法111条によると、代理権は本人の死亡により消滅します。
AX間の委任契約が終了したとなると、Aの死後に行ったXの行為は、法律上の根拠を欠くことになり、YはXに対して損害賠償請求等をすることができる可能性があります。
民法111条・653条は上記のように定めていますが、特約を否定する趣旨の規定ではないので、同条と異なる合意を当事者はすることができます。
最高裁は、契約の当事者は同条と異なる合意をすることができるとしました。
本件では、AX間の委任契約は、死後も存続するとの特約付きである可能性が高いです。そのため、Aの死亡により委任契約が当然に終了するとした原審を破棄し差し戻しました。
「自己の死後の事務を含めた法律行為等の委任契約が丙山と上告人との間に成立したとの原審の認定は、当然に、委任者丙山の死亡によっても右契約を終了させない旨の合意を包含する趣旨のものというべく、民法六五三条の法意がかかる合意の効力を否定するものでないことは疑いを容れないところである。しかるに、原判決が丙山の死後の事務処理の委任契約の成立を認定しながら、この契約が民法六五三条の規定により丙山の死亡と同時に当然に終了すべきものとしたのは、同条の解釈適用を誤り、ひいては理由そごの違法があるに帰し、右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるといわなければならない。この点をいう論旨は理由があり、原判決中、上告人敗訴の部分は破棄を免れない。そして、右部分について、当事者間に成立した契約が、前記説示のような同条の法意の下において委任者の死亡によって当然には終了することのない委任契約であるか、あるいは所論の負担付贈与契約であるかなどを含め、改めて、その法的性質につき更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。」