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【判例解説】被害再現写真を示して行った証人尋問(証拠):最決平成23年9月14日 

Last Updated on 2022年9月13日

 

Point 
1.被害再現写真の内容を引用して行った証言について、証拠能力を認めた事案 

 

1.事案の概要 

 

 被告人は、電車内で痴漢をしたとして、強制わいせつ罪で起訴されました。 

 

第3回公判期日において被害者の証人尋問が行われました。検察官は痴漢被害の具体的状況痴漢犯人を捕まえた際の具体的状況犯人と被告人の同一性等について尋問を行い被害者から、動作を交えた証言を得ました。 

 

その後、被害状況等を明確にするために必要であるとして捜査段階で撮影していた被害再現写真(犯人を検挙した状況を再現した写真も含む。)を示して尋問することの許可を求めました。弁護人は、写真を示すことには反対しなかったので、裁判官は、再現写真を示して被害者尋問を行うことを許可しました。 

 

そこで検察官は被害再現写真を示しながら個々の場面ごとにそれらの写真が被害者の証言した被害状況等を再現したものであるかを問う尋問を行いました。被害者は、被害の状況等について具体的に述べた各供述内容は再現写真のとおりである旨の供述をしました。上記公判期日終了後裁判所は尋問に用いられた写真の写しを被害者証人尋問調書の末尾に添付する措置をとりましたが、これについて弁護人の同意を得ていません。なお、これらの写真は、その後も証拠として採用されていません 

 

第1審は主として被害者の証言により被告人の電車内での強制わいせつ行為を認定しました。 

 

(関連条文) 

・刑事訴訟法320条1項 「第321条乃至第328条に規定する場合を除いては、公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない。」 

 ・刑事訴訟規則49条 「調書には、書面、写真その他裁判所又は裁判官が適当と認めるものを引用し、訴訟記録に添附して、これを調書の一部とすることができる。  

・刑事訴訟規則199条の12第1項 「訴訟関係人は、証人の供述を明確にするため必要があるときは、裁判長の許可を受けて、図面、写真、模型、装置等を利用して尋問することができる。 

 

 

【争点】 

・被害再現写真を示して行った証人尋問は伝聞法則の潜脱にあたるか 

・被害再現写真を調書の末尾に添付した措置は適法か

  

2.判旨と解説 

 

弁護人は、被害再現写真は伝聞法則なので証拠として採用することができず、このような写真を尋問に用いて記録の一部とすることは伝聞証拠についての規制を潜脱する違法な措置と主張しました。 

 

 本件で検察官は、被害再現写真を被害者に示して尋問を行っています。刑事訴訟規則199条の12第1項は、裁判所の許可を受けて、図面等を証人に示して尋問をすることを認めています。もっとも、図面等を示して尋問を行った結果、証人に不当な影響を与えた場合、当該措置は違法となる余地があります。 

 

本件で検察官は、まずは被害再現写真を示すことなく、被害状況等につき被害者に尋問をしています。その後被害再現写真を示して尋問をしていますが、これはこれまでの供述と同趣旨のものであるかを確認するためでした。そのため、最高裁は、裁判所が被害再現写真を示して尋問することを許可したことに違法はないとします。 

 

本件において,検察官は,証人(被害者)から被害状況等に関する具体的な供述が十分にされた後に,その供述を明確化するために証人が過去に被害状況等を再現した被害再現写真を示そうとしており,示す予定の被害再現写真の内容は既にされた供述と同趣旨のものであったと認められ,これらの事情によれば,被害再現写真を示すことは供述内容を視覚的に明確化するためであって,証人に不当な影響を与えるものであったとはいえないから,第1審裁判所が,刑訴規則199条の12を根拠に被害再現写真を示して尋問することを許可したことに違法はない。 

 

図面等を示して尋問することができるのは、供述を明確化するために必要かつ有意義であるからです。ここで示す図面については、証拠能力の有無は要件となっていません。そのため、被害再現写真が伝聞証拠にあたり、かつ証拠能力がない場合でも、規則199条の12の要件を満たせば、これを示して尋問することができます。 

 

*被害再現写真が伝聞証拠にあたりうることについて*最決平成17年9月27日 

 

もっとも、同条で図面を示して尋問することを、裁判所が許可したからといって、示した図面に証拠能力が付与されるわけではありません。そのため、これを独自の証拠として事実認定の基礎とすることは許されません。証拠としたいならば、別途、証拠調べ請求をする必要があります。 

 

本件で被害再現写真は規則199条の12により、これを示して尋問を行うことを許可されていますが、証拠として採用されていないので、被害再現写真を根拠に被告人のわいせつ行為などを認定することはできません。 

 

ところで、第1審は、被害再現写真を証人尋問調書の末尾に添付しています。これは刑訴規則49条に基づく措置です。同条に基づき書面等を添付するのに、弁護人の同意の有無は要件となっていません。また、この措置は、書面等を独自の証拠として扱う趣旨ではありません。そのため、同措置は適法なものです。 

 

「また,本件証人は,供述の明確化のために被害再現写真を示されたところ,被害状況等に関し具体的に証言した内容がその被害再現写真のとおりである旨供述しており,その証言経過や証言内容によれば,証人に示した被害再現写真を参照することは,証人の証言内容を的確に把握するために資するところが大きいというべきであるから,第1審裁判所が,証言の経過,内容を明らかにするため,証人に示した写真を刑訴規則49条に基づいて証人尋問調書に添付したことは適切な措置であったというべきである。この措置は,訴訟記録に添付された被害再現写真を独立した証拠として扱う趣旨のものではないから,この措置を決するに当たり,当事者の同意が必要であるとはいえない。 

 

本件では、被告人のわいせつ行為が認定されており有罪判決となっています。この認定は、主に被害者の証言によりされています。この証言には、被害証言写真を示されてしたものも含まれます。刑訴規則199条の12により示されてした証言は、当該措置が違法な場合などを除き引用された限度で事実認定の基礎とすることができます 

 

先述のように、刑訴規則199条の12の措置は適法なものなので、被害再現写真を示されて行った証言も、従前の証言と共に、事実認定の基礎とできます。 

 

以上から最高裁は、本件で第1審の訴訟手続には違法はないとしました。 

 

*電子メールを示して尋問をした場合における、電子メールの証拠能力について判示した判例はこちら 

 

そして,本件において証人に示した被害再現写真は,独立した証拠として採用されたものではないから,証言内容を離れて写真自体から事実認定を行うことはできないが,本件証人は証人尋問中に示された被害再現写真の内容を実質的に引用しながら上記のとおり証言しているのであって,引用された限度において被害再現写真の内容は証言の一部となっていると認められるから、そのような証言全体を事実認定の用に供することができるというべきである。このことは,被害再現写真を独立した供述証拠として取り扱うものではないから,伝聞証拠に関する刑訴法の規定を潜脱するものではない。以上によれば,本件において被害再現写真を示して尋問を行うことを許可し,その写真を訴訟記録に添付した上で,被害再現写真の内容がその一部となっている証言を事実認定の用に供した第1審の訴訟手続は正当であるから,伝聞法則に関する法令違反の論旨を採用しなかった原判決は結論において是認できる。」  

  

 

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