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1. 強制力を行使する権力的公務以外の公務は、業務妨害罪の「業務」に該当する |
1. 事案の概要
被告人は、町長選挙の立候補者を届け出るに際して、種々の妨害活動を行って同選挙の選挙庁が行う立候補届出受理の手続きを遅延させました。また、同様の妨害行為を衆議院議員総選挙の立候補者の届出に際しても行いました。
(関連条文)
・刑法95条 「公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。」
・刑法233条 「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」
・刑法234条 「威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。」
【争点】
・被告人の行為に業務妨害罪は成立するか
2.判旨と解説
本件で被告人は、偽計及び威力による業務妨害罪で起訴されました。業務妨害罪が成立するためには、「業務」が妨害されたと言える必要があります。もっとも、本件で妨害された選挙長の事務は、「公務」に該当します。そこで、「公務」は業務妨害罪のいう「業務」に含まれるかが問題となります。
*業務妨害罪の解説はこちら
例えば、業務と公務を完全に二分し、公務は業務に該当しないと解した場合、本件では被告人の行為には業務妨害罪が成立しないことになります。そうすると、公務執行妨害罪の成否が問題となりますが、本件で被告人は公務執行妨害罪で起訴されていません。これは、公務執行妨害罪の実行行為に「偽計」が含まれていない、同罪の「暴行・脅迫」は「威力」よりも厳格な概念である、公務執行妨害罪の対象が具体的な職務の執行となっていることが影響しているでしょう。大雑把に言うと、業務妨害罪よりも公務執行妨害罪は成立しにくいのです。
そうすると、公務に該当するからと言って、一概に業務妨害罪の保護対象から除外するのは妥当ではないこととなります。
引用判例にもありますように、最高裁は強制力を行使する権力的公務以外の公務は、業務妨害罪の対象になるとしてきました。これを本件でも確認しています。そして、被告人に業務妨害罪が成立すると判示しました。
「なお、本件において妨害の対象となった職務は、公職選挙法上の選挙長の立候補届出受理事務であり、右事務は、強制力を行使する権力的公務ではないから、右事務が刑法(平成七年法律第九一号による改正前のもの)二三三条、二三四条にいう「業務」に当たるとした原判断は、正当である(最高裁昭和三六年(あ) 第八二三号同四一年一一月三〇日大法廷判決・刑集二〇巻九号一〇七六頁、最高裁昭和五九年(あ)第六二七号同六二年三月一二日第一小法廷決定・刑集四一巻二号 一四〇頁参照)。」