【判例解説】接見指定の要件(捜査):最大判平成11年3月24日

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Point 
1.接見指定の要件である「捜査のため必要があるとき」とは、右接見等を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合を指す 

 

1.事案の概要 

 昭和62年12月4日、被疑者は、恐喝未遂の容疑で逮捕されました。そして、5日から24日までの間勾留されました。これと合わせて、捜査機関は接見禁止の決定をしました。

 

 弁護人は、4日に被疑者と接見して以降、何度も接見を申し入れました。しかし検察官は、弁護人が接見指定書の受領と、警察署への持参を行わなかったため、これを拒否し続けました。弁護人は、検察官の処分に対して、準抗告をしました。

 

 これを受けて裁判所は、検察官が行った接見拒否処分を違法と判断し、これを取消しました。それにも関わらず、検察官は、弁護人に接見指定書の受領等を弁護人に求め続け、13日になりやっとXと接見を行うことができました。 

 

 被疑者は、検察官により接見を妨害されたとして、国家賠償請求訴訟を提起しました。 

 

(関連条文) 

憲法34条 :「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。~」 

・刑事訴訟法39条1項 :「身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあっては、第31条第2項の許可があった後に限る。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。 

・刑事訴訟法39条3項 :検察官、検察事務官又は司法警察職員(司法警察員及び司法巡査をいう。以下同じ。)は、捜査のため必要があるときは、公訴の提起前に限り、第1項の接見又は授受に関し、その日時、場所及び時間を指定することができる。但し、その指定は、被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであってはならない。 

 

【争点】 

・接見指定は合憲か?(こでは扱いません) 

・「捜査のため必要あるとき(刑訴39条3項)とはどのような場合か? 

 



2.判旨と解説  

 

 本件では、接見指定の合憲性とその要件について争われました。 

 

*接見交通権についての説明はこちら 

  

 まず最高裁は接見交通権の性質について述べます。最高裁は、憲法34条前段被疑者に弁護人を選任し、また、助言を受ける機会を持つことを実質的に保障している規定と解します。そして、刑事訴訟法39条3項の定める接見交通権は、これを具体的に保障するために設けられた規定であるとします。 

 

憲法三四条前段は、「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。」と定める。この弁護人に依頼する権利は、身体の拘束を受けている被疑者が、拘束の原因となっている嫌疑を晴らしたり、人身の自由を回復するための手段を講じたりするなど自己の自由と権利を守るため弁護人から援助を受けられるようにすることを目的とするものである。したがって、右規定は、単に被疑者が弁護人を選任することを官憲が妨害してはならないというにとどまるものではなく、被疑者に対し、弁護人を選任した上で、弁護人に相談し、その助言を受けるなど弁護人から援助を受ける機会を持つことを実質的に保障しているものと解すべきである。刑訴法三九条一項が、「身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあっては、第三十一条第二項の許可があつた後に限る。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。」として、被疑者と弁護人等との接見交通権を規定しているのは、憲法三四条の右の趣旨にのっとり身体の拘束を受けている被疑者が弁護人等と相談し、その助言を受けるなど弁護人等から援助を受ける機会を確保する目的で設けられたものであり、その意味で、刑訴法の右規定は、憲法の保障に由来するものであるということができる(最高裁昭和四九年(オ)第一〇八八号同五三年七月一〇日第一小法廷判決・民集三二巻五号八二〇頁、最高裁昭和五八年(オ)第三七九号、第三八一号平成三年五月一〇日第三小法廷判決・民集四五巻五号九一九頁、最高裁昭和六一年(オ)第八五一号平成三年五月三一日第二小法廷判決・裁判集民事一六三号四七頁参照)。 

 

他方、犯罪が発生した場合に、捜査機関捜査活動をすることは、当然のことです(憲法31条等)。そうすると、接見交通権が重大な権利だからといって、何時でも捜査に優越するとは解することはできません。そこで、これらの利害関係を調整することが求められます。

 

もっとも、憲法は、刑罰権の発動ないし刑罰権発動のための捜査権の行使が家の権能であることを当然の前提とするものであるから、被疑者と弁護人等との接見交通権が憲法の保障に由来するからといって、これが刑罰権ないし捜査権に絶対的に優先するような性質のものということはできない。そして、捜査権を行使するためには、身体を拘束して被疑者を取り調べる必要が生ずることもあるが、憲法はこのような取調べを否定するものではないから、接見交通権の行使と捜査権の行使との間に合理的な調整を図らなければならない。憲法三四条は、身体の拘束を受けている被疑者に対して弁護人から援助を受ける機会を持つことを保障するという趣旨が実質的に損なわれない限りにおいて、法律に右の調整の規定を設けることを否定するものではないというべきである。 

 

刑事訴訟法39条3本文は、捜査のため必要あるとき」に、接見指定をすることができるとしており、接見交通権の制限を認めています。これは、上で述べた調整をするために、設けられた規定です。 

 

ところで、刑訴法三九条は、前記のように一項において接見交通権を規定する一方、三項本文において、「検察官、検察事務官又は司法警察職員(司法警察員及び司法巡査をいう。以下同じ。)は、捜査のため必要があるときは、公訴の提起前に限り、第一項の接見又は授受に関し、その日時、場所及び時間を指定することができる。」と規定し、接見交通権の行使につき捜査機関が制限を加えることを認めている。この規定は、刑訴法において身体の拘束を受けている被疑者を取り調べることが認められていること(一九八条一項)、被疑者の身体の拘束については刑訴法上最大でも二三日間(内乱罪等に当たる事件については二八日間)という厳格な時間的制約があること(二〇三条から二〇五条まで、二〇八条、二〇八条の二参照)などにかんがみ、被疑者の取調べ等の捜査の必要と接見交通権の行使との調整を図る趣旨で置かれたものである。そして、刑訴法三九条三項ただし書は、「但し、その指定は、被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであつてはならない。」と規定し、捜査機関のする右の接見等の日時等の指定は飽くまで必要やむを得ない例外的措置であって、被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限することは許されない旨を明らかにしている。 

 

 最高裁は、条の立法趣旨(憲法の保障に由来する)や内容(必要があると、かつ被疑者の防御の準備の権利を不当に害してはならない等を踏まえると、接見の申出があった場合、原則として接見の機会を与えるべきであるとします。 

 

 そして、「捜査のため必要があるとき」とは、右接見等を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に限られるとします。現に取調や実況見分中である場合はもちろん、そうでなくとも、間近いときにこれをする確実な予定があり、接見を認めるとこれを予定通り開始できなくなる場合も、捜査に顕著な支障が生ずる場合にあたるとしました。

 

 このような刑訴法三九条の立法趣旨、内容に照らすと、捜査機関は、弁護人等から被疑者との接見等の申出があったときは、原則としていつでも接見等の機会を与えなければならないのであり、同条三項本文にいう「捜査のため必要があるとき」とは、右接見等を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に限られ、右要件が具備され、接見等の日時等の指定をする場合には、捜査機関は、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し、被疑者が弁護人等と防御の準備をすることができるような措置を採らなければならないものと解すべきである。そして、弁護人等から接見等の申出を受けた時に、捜査機関が現に被疑者を取調べ中である場合や実況見分、検証等に立ち会わせている場合、また、間近い時に右取調べ等をする確実な予定があって、弁護人等の申出に沿った接見等を認めたのでは、右取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合などは、原則として右にいう取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に当たると解すべきである(前掲昭和五三年七月一〇日第一小法廷判決、前掲平成三年五月一〇日第三小法廷判決、前掲平成三年五月三一日第二小法廷判決参照)。 

 

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