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マーベリー対マディソン事件:Marbury v. Madison(1803)

Last Updated on 2020年10月17日

 憲法に反する法律は裁判所によって無効と判断されます。日本の憲法は以下のように定めています。

 

憲法第81条 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。 

 

この原則は日本だけでなく、アメリカ、フランス等の諸国でも同じです。憲法は国家の権限を定める最高法規であり、また、法律に関する判断をするのは裁判所であるから当然のことだ、と思われますが、かつてこれは定かではありませんでした。 

 

 ここで解説するマーベリー対マディソン事件は、世界で初めて裁判所による違憲審査権を確立した事件として有名です。また、アメリカだけでなく、日本や諸国の司法制度に多大な影響を与えた判例です。

 

1.事案の概要 

 1800年、Thomas Jeffersonは第三代アメリカ合衆国大統領に選ばれました。Jefferson が大統領に就任する直前、連邦議会は新たに連邦裁判所の裁判官を数十人指名しました。裁判官の任命は①上院の承認②大統領の署名③国務大臣のよる押印と任命書の交付、という流れで進みます。 

 

しかし、大統領交代という混乱の最中、第二代アメリカ合衆国大統領(John Adams)による署名と、国務大臣(John Marshall)による押印はなされましたが、彼は何人かの任命書を交付し損ねました。そのうちの一人がMarburyでした。第三代大統領に就任したJefferson は新たに国務大臣となったMadison (後に第四代大統領)にMarbury の任命書を交付しないよう指示しました。そこでMarburyはMadisonに対する任命書の交付を命じる職務執行令状(writ of mandamus)の発付を求めて、連邦最高裁判所に訴えを提起しました。 

 

2.判旨と解説 

 当時の最高裁判所長官は、なんと、任命書の交付をし損ねた先代の国務大臣であったMarshallでした。Marshallが執筆した法廷意見は三つに分かれます。 

 

 第一に、Marburyに任命書を受ける権利があるか否かを検討します。最高裁判所は、裁判官の任命は大統領による署名と国務大臣による押印で完了しており、交付は単なる形式的なものにすぎないのとし、これを認めました。

 

 次に、Marburyは裁判所に法的救済を訴えることができるか否かを検討します。最高裁判所は、行政府の行為を、政治的な裁量判断を要する行為(裁量行為)と、法によって明確にすべきことが義務付けられている行為(覊束行為)に分け、後者の義務の怠慢により権利を害された者に対しては、裁判所による法的救済を与えることが可能とします。そして、任命書の交付は後者にあたるので、これを可とします。

 

 最後に、本件において最高裁判所に任命書の交付を命ずる権限があるか否かを検討します。ここが最も重要な判旨です。最高裁は、これを否定します。というのも、当時の法律に最高裁は職務執行令状を出すか否かを、第一審で判断する権限を有する(つまり、直接最高裁に訴えを提起できる…これを根拠にMarshallは訴えを提起した)といった規定があったのですが、これが憲法に反するとして自らの権限を否定したのです。 

 

アメリカ憲法には以下の規定があります。 

 

Article.Ⅲ. 

Secction.2. 

Clause. 2: In all Cases affecting Ambassadors, other public Ministers and Consuls, and those in which a State shall be Party, the supreme Court shall have original Jurisdiction. In all the other Cases before mentioned, the supreme Court shall have appellate Jurisdiction, both as to Law and Fact, with such Exceptions, and under such Regulations as the Congress shall make. 

(日本語訳)

第3章【司法部】 

第2条【連邦裁判所の管轄事項】 

[第2項] 大使その他の外交使節および領事にかかわるすべての事件、ならびに州が当事者であるすべての事件については、最高裁判所は、第一審管轄権を有する。前項に掲げたその他の事件については、最高裁判所は、連邦議会の定める例外の場合を除き、連邦議会の定める規則に従い、法律問題および事実問題の双方について上訴管轄権を有する。 

 

 本件訴えは直接最高裁に提起されていますが、憲法上、この訴えは最高裁判所が第一審管轄権を行使できるものではありません。そのため、本件訴えを可能にするような規定を定めることは連邦議会に認められておらず、憲法に反するものであり無効としました。 

 

 結論として、最高裁は、職務執行令状を出す権限を有しないとして、Marburyの救済を行いませんでした。アメリカの憲法には、日本国憲法81条のように、違憲審査権についての明文の規定はありません。特に当時は、最高裁の違憲審査権について多くの論争があったのですが、この判決により、最高裁の違憲審査権が確立されていくことになります。

 

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