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[解説] エックス線検査の適法性(捜査)最高裁平成21年9月28日第三小法廷決定

Last Updated on 2020年10月17日

Point 
1.X線検査は、検証としての性質を有する強制処分に当たる 

1.事案の概要 

警察官らは,かねてから覚せい剤密売の嫌疑でAに対して内偵捜査を進めていましたが,Aが暴力団関係者から宅配便により覚せい剤を仕入れている疑いが生じました。そこで、宅配便業者に対して照会等をすると,短期間のうちにAに多数の荷物が届けられており,それらの一部には不審な記載のあること等が判明しました。

 

警察官らは,宅配便荷物のうち不審なものを借り出してその内容を把握する必要があると考え,宅配業者の承諾を得て、5回にわたり,同事務所に配達される予定の宅配便荷物に対してエックス線検査を行いました。その結果、2回目以降の検査においては,いずれも,細かい固形物が均等に詰められている長方形の袋の射影(覚せい剤及びその原料)が観察されました。そして、警察官らは、同検査で得られた写真に基づき、捜索差押許可状を請求し、覚せい剤等を押収しました。 

 

*エックス線検査を経た宅配便荷物は,検査後,宅配営業所に返還されて通常の運送過程下に戻り,通常通り配達されました。また,警察官らは,エックス線検査について,荷送人や荷受人の承諾を得ていませんでした。 

 

(関連条文) 

・刑事訴訟法197条1項:捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない 

 

【争点】 

・本件X線検査は、刑事訴訟法197条1項の定める強制処分に当たるか 

 

2.判旨と解説 

※以下は判旨と解説になりますが、まず黒枠内で判決についてまとめたものを記載し、後の「」でその部分の判決文を原文のまま記載しています。解説だけで十分理解できますが、法律の勉強のためには原文のまま理解することも大切ですので、一度原文にも目を通してみることをお勧めします。

 

最高裁は、X線検査の以下の特徴を指摘し、X線検査は、荷受人等のプライバシー等を大きく侵害するもので、検証の性質を有するとします。 

①射影によって内容物の形状等を確認できる 

②内容物によっては、その物を相当具体的に特定可能 

そして、本件では検証許可状の発布を得ることなくX線検査を行ったので、この行為は違法であるとしました。 

 

「…本件エックス線検査は,荷送人の依頼に基づき宅配便業者の運送過程下にある荷物について,捜査機関が,捜査目的を達成するため,荷送人や荷受人の承諾を得ることなく,これに外部からエックス線を照射して内容物の射影を観察したものであるが,その射影によって荷物の内容物の形状や材質をうかがい知ることができる上,内容物によってはその品目等を相当程度具体的に特定することも可能であって,荷送人や荷受人の内容物に対するプライバシー等を大きく侵害するものであるから,検証としての性質を有する強制処分に当たるものと解される。そして,本件エックス線検査については検証許可状の発付を得ることが可能だったのであって,検証許可状によることなくこれを行った本件エックス線検査は,違法であるといわざるを得ない。」

 

そして、本件証拠である覚せい剤等は、違法なX線検査と関連を有する証拠であるとします。

 

【補足】 

捜査が違法であった場合、その違法捜査で獲得した証拠の証拠能力(証拠として許容されるための資格)が必ず否定されるというわけではありません。違法捜査により獲得した証拠の証拠能力が否定されるのは、証拠収集過程に重大な違法があり、これを証拠として許容することが将来の違法捜査の抑制の見地からして相当でない場合と解されています。 

 

「…本件覚せい剤等は,同年6月25日に発付された各捜索差押許可状に基づいて同年7月2日に実施された捜索において,5回目の本件エックス線検査を経て本件会社関係者が受け取った宅配便荷物の中及び同関係者の居室内から発見されたものであるが,これらの許可状は,4回目までの本件エックス線検査の射影の写真等を一資料として発付されたものとうかがわれ,本件覚せい剤等は,違法な本件エックス線検査と関連性を有する証拠であるということができる。」 

 

しかし、以下の事実を指摘し、証拠収集過程に重大な違法があるとまではいえず,証拠の重要性等諸般の事情を総合すると,本件覚せい剤等の証拠能力を肯定することができるとしました。 

①覚せい剤等譲受の嫌疑が高まっていた 

②事案の解明には、X線検査が必要であった 

③宅配業者の承諾を経ていた 

④X線検査の対象を限定するような配慮がなされていた 

⑤そうすると、警察官らに令状主義に関する諸規定を潜脱する意図が認められない 

⑥本件覚せい剤は、裁判官の司法審査を経た捜索差押許可状に基づき発見されている 

⑦⑥の司法審査においては、X線検査の結果以外の証拠も参考にしている 

 

「しかしながら,本件エックス線検査が行われた当時,本件会社関係者に対する宅配便を利用した覚せい剤譲受け事犯の嫌疑が高まっており,更に事案を解明するためには本件エックス線検査を行う実質的必要性があったこと,警察官らは,荷物そのものを現実に占有し管理している宅配便業者の承諾を得た上で本件エックス線検査を実施し,その際,検査の対象を限定する配慮もしていたのであって,令状主義に関する諸規定を潜脱する意図があったとはいえないこと,本件覚せい剤等は,司法審査を経て発付された各捜索差押許可状に基づく捜索において発見されたものであり,その発付に当たっては,本件エックス線検査の結果以外の証拠も資料として提供されたものとうかがわれることなどの諸事情にかんがみれば,本件覚せい剤等は,本件エックス線検査と上記の関連性を有するとしても,その証拠収集過程に重大な違法があるとまではいえず,その他,これらの証拠の重要性等諸般の事情を総合すると,その証拠能力を肯定することができると解するのが相当である。」 

 

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