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[解説] 刑法200条尊属殺人重罰規定違憲判決①(法の下の平等):最高裁昭和48年4月4日大法廷判決

Last Updated on 2022年3月15日

Point 
1.憲法14条1項後段は例示的列挙である 
2.憲法14条1項は不合理な差別的取り扱いを禁じている 
3.憲法14条1項に反するか否かは、立法目的と立法目的達成の手段が合理性であるかによって決するとする判断手法を用いた 
4.刑法200条は、立法目的達成の手段が不合理なため違憲である 

1.事案の概要 

 Xは、14歳から以降約10年、実父Aから夫婦同様の生活を強いられていました。Xが結婚の機会に巡り合ったところ、Aはこれに腹を立て、Xと上記関係を続けようとして、Xを10日間にわたり虐待していました。そこでXはこの環境から抜け出そうとして、Aを殺害しました。その後Xは自首し、刑法200条の罪で起訴されました。 

(関連条文)

・憲法14条1項:すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

・刑法200条:自己又は配偶者の直系尊属を殺したる者は死刑又は無期懲役に処す 

2.判旨と解説 

※以下は判旨と解説になりますが、まず黒枠内で判決についてまとめたものを記載し、後の「」でその部分の判決文を原文のまま記載しています。解説だけで十分理解できますが、法律の勉強のためには原文のまま理解することも大切ですので、一度原文にも目を通してみることをお勧めします。 

 

 

最高裁は、憲法14条1項後段に列挙された事項は例示であるとします。そして、それ以外の事柄についても、合理的な根拠がない限り差別的な取り扱いをすることは許されないとします。そして、刑法200条は差別的取り扱いの規定(尊属を殺した場合に刑が加重されるため)であるとし、この規定が合憲か否かは、合理的根拠に基づく差別かどうかによって決まるとします。 

 

「…憲法一四条一項は、国民に対し法の下の平等を保障した規定であつて、同項後段列挙の事項は例示的なものであること、およびこの平等の要請は、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでないかぎり、差別的な取扱いをすることを禁止する趣旨と解すべきことは、当裁判所大法廷判決(昭和三七年(オ)第一四七二号同三九年五月二七日・民集一八巻四号六七六頁)の示すとおりである。そして、刑法二〇〇条は、自己または配偶者の直系尊属を殺した者は死刑または無期懲役に処する旨を規定しており、被害者と加害者との間における特別な身分関係の存在に基づき、同法一九九条の定める普通殺人の所為と同じ類型の行為に対してその刑を加重した、いわゆる加重的身分犯の規定であつて(最高裁昭和三〇年(あ)第三二六三号同三一年五月二四日第一小法廷判決・刑集一〇巻五号七三四頁)、このように刑法一九九条のほかに同法二〇〇条をおくことは、憲法一四条一項の意味における差別的取扱いにあたるというべきである。そこで、刑法二〇〇条が憲法の右条項に違反するかどうかが問題となるのであるが、それは右のような差別的取扱いが合理的な根拠に基づくものであるかどうかによつて決せられるわけである。」 

 

刑法200条の立法目的について、尊属を卑属又その配偶者が殺すことは道徳的に許されず、厳罰化することでこれを強く禁止することにあるとします

 

 「…同条の立法目的につき、これが憲法一四条一項の許容する合理性を有するか否かを判断すると、次のように考えられる。刑法二〇〇条の立法目的は、尊属を卑属またはその配偶者が殺害することをもつて一般に高度の社会的道義的非難に値するものとし、かかる所為を通常の殺人の場合より厳重に処罰し、もつて特に強くこれを禁圧しようとするにあるものと解される。」 

 

 

そして、この目的を達成するために刑を加重すること自体は不合理でなく、憲法14条1項に違反しないとします。それは以下の理由によります。 

①親族は、婚姻・血縁を基礎として敬愛と情により結ばれている 

②卑属は父母等の尊属により養われて成人し、卑属の所為につき尊属が法律的・道徳的責任を負うので、尊属を尊重することは基本的道義である 

③これらの自然的情愛ないし倫理の維持は刑法上の保護に値する 

 

 

「ところで、およそ、親族は、婚姻と血縁とを主たる基盤とし、互いに自然的な敬愛と親密の情によつて結ばれていると同時に、その間おのずから長幼の別や責任の分担に伴う一定の秩序が存し、通常、卑属は父母、祖父母等の直系尊属により養育されて成人するのみならず、尊属は、社会的にも卑属の所為につき法律上、道義上の責任を負うのであつて、尊属に対する尊重報恩は、社会生活上の基本的道義というべく、このような自然的情愛ないし普遍的倫理の維持は、刑法上の保護に値するものといわなければならない。しかるに、自己または配偶者の直系尊属を殺害するがごとき行為はかかる結合の破壊であつて、それ自体人倫の大本に反し、かかる行為をあえてした者の背倫理性は特に重い非難に値するということができる。このような点を考えれば、尊属の殺害は通常の殺人に比して一般に高度の社会的道義的非難を受けて然るべきであるとして、このことをその処罰に反映させても、あながち不合理であるとはいえない。そこで、被害者が尊属であることを犯情のひとつとして具体的事件の量刑上重視することは許されるものであるのみならず、さらに進んでこのことを類型化し、法律上、刑の加重要件とする規定を設けても、かかる差別的取扱いをもつてただちに合理的な根拠を欠くものと断ずることはできず、したがつてまた、憲法一四条一項に違反するということもできないものと解する。」 

②はこちら

 

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