[解説] 八幡製鉄事件①(法人に対する基本権の保障):最高裁昭和45年6月24日

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Point 
1.政治資金の寄附は法人の権利能力の範囲内 
2.憲法上の権利は、性質上可能な限り法人にも及ぶ 

1.事案の概要 

 八幡製鉄会社の代表取締役であったY1、Y2は、同社を代表して自由民主党に多額の金銭寄附を行いました。そこで、同社の株主であったXは、この政治資金の寄附が違法であるとして、株主代表訴訟を提起しました。 

2.判旨と説明 

※以下は判旨と解説になりますが、まず黒枠内で判決についてまとめたものを記載し、後の「」でその部分の判決文を原文のまま記載しています。解説だけで十分理解できますが、法律の勉強のためには原文のまま理解することも大切ですので、一度原文にも目を通してみることをお勧めします。   

※本件では、①政治資金の寄附が法人の権利能力の範囲内か②政治資金の寄附が取締役の忠実義務違反か(旧商法254条の2、現行会社法355条)③政治資金の寄附が公序良俗に反するか(民法90条)、が争われました。ここでは①を扱います。 (③についてはこちらで扱っています。)

(1)法人の権利能力 

まず、最高裁は、法人は定款所定の目的のために存在し、かつ法人の権利能力(権利義務が帰属する資格)は定款の範囲内で認められており、そのため、定款の範囲外の行為をすることはできない、と述べます。(詳細は民法、会社法で説明します)。

 

「会社は定款に定められた目的の範囲内において権利能力を有するわけであるが、目的の範囲内の行為とは、定款に明示された目的自体に限局されるものではなく、その目的を遂行するうえに直接または間接に必要な行為であれば、すべてこれに包含されるものと解するのを相当とする。そして必要なりや否やは、当該行為が目的遂行上現実に必要であつたかどうかをもつてこれを決すべきではなく、行為の客観的な性質に即し、抽象的に判断されなければならないのである」

 

続けて、以下の理由から法人の権利能力を広く解すことを可能にする旨を述べました。

①法人は定款の目的の範囲内で権利能力を有する 

②法人は自然人と同じく社会的実在であるから社会的負担を負う 

③法人に社会通念上期待ないし要請されるものは法人にもなしうる 

 
 

「…しかし、会社は、他面において、自然人とひとしく、国家、地方公共団体、地域社会その他(以下社会等という。)の構成単位たる社会的実在なのであるから、それとしての社会的作用を負担せざるを得ないのであつて、ある行為が一見定款所定の目的とかかわりがないものであるとしても、会社に、社会通念上、期待ないし要請されるものであるかぎり、その期待ないし要請にこたえることは、会社の当然になしうるところであるといわなければならない。そしてまた、会社にとつても、一般に、かかる社会的作用に属する活動をすることは、無益無用のことではなく、企業体としての円滑な発展を図るうえに相当の価値と効果を認めることもできるのであるから、その意味において、これらの行為もまた、間接ではあつても、目的遂行のうえに必要なものであるとするを妨げない。」

 

そして、以下の理由で法人の政治資金の寄附を権利能力の範囲内としました。

①憲法は政党について規定していないが、政党は国民の重大な関心事でなければならない

②そのため、政党の発展に貢献・協力することは法人に期待されている 

③したがって、政治資金の寄附が、法人に期待ないし要請される限りにおいてなされる以上、法人に政治資金の寄附をする能力がある。

 

 

「憲法は政党について規定するところがなく、これに特別の地位を与えてはいないのであるが、憲法の定める議会制民主主義は政党を無視しては到底その円滑な運用を期待することはできないのであるから、憲法は、政党の存在を当然に予定しているものというべきであり、政党は議会制民主主義を支える不可欠の要素なのである。そして同時に、政党は国民の政治意思を形成する最も有力な媒体であるから、政党のあり方いかんは、国民としての重大な関心事でなければならない。したがつて、その健全な発展に協力することは、会社に対しても、社会的実在としての当然の行為として期待されるところであり、協力の一態様として政治資金の寄附についても例外ではないのである。…要するに、会社による政治資金の寄附は、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためになされたものと認められるかぎりにおいては、会社の定款所定の目的の範囲内の行為であるとするに妨げないのである。」

八幡製鉄事件Ⅱ はこちら

 

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