よくテレビやネットニュースなどで、「~は憲法に反する。」といった文言を見聞きしたことはありませんか?実は、憲法違反は国家の行為にのみ観念でき、私人の行為は憲法違反とはならないと解されています。分かりやすく言うと、「~は憲法に反する。」という言葉は、国家に関係すること(例えば、自衛隊の存在、国会議員・各大臣の行為等)には使えるが、私達一般人同士の関係には使えないとされています。これは一体どういうことなのでしょうか?
1.憲法の適用範囲
近代の憲法は、国家権力から私人の権利を守る、という思想から生じたものです。そのため、憲法が保障する権利は私人と国家の間において存在すると解されてきました。他方、私人間の関係は、私人の自由な意思と責任に基づいて構築するべきといった思想のもと(私的自治の原則)、私人間の関係は憲法の感知するところではないと解されてきました。
しかし、社会の発展に伴って、社会的・経済的強者(大企業やマスメディア等)が登場し、これらによる私人の権利侵害が生じました。そこで、上記侵害から私人を守るために、憲法上の権利保障を私人間の関係にも及ぼすべきではとの見解が登場します。これが、憲法の私人間適用の問題です。
2.憲法上の人権保障は私人間に及ぶか?
憲法の私人間適用については3つの考え方が存在します。
(1)直接適用説
直接適用説は、巨大な社会的集団が出現した現代において、憲法は国家対私人の関係を規律するだけでなく、国民の生活に関わる全ての分野の客観的秩序を構成するものと解すべきとして、憲法の諸規定を私人間の関係に適用することを認めます。この説によると、私人間の争いでも、後述する間接適用説のように民法90条を経由しなくとも、「憲法に反する。」といった主張が可能になります。
この説に対しては、私的自治の原則に対する不当な介入にならないか、憲法の諸規定が国家権力に対するものという性質を希薄化してしまうのではないか、といった懸念が示されています。
(2)間接適用説
間接適用説は、民法90条のような一般条項を媒介にして、憲法の規定を間接的に適用すると解するものです。つまり、憲法の規定が民法90条の公序を形作り、それを通して私人の権利を保障するのです。
この説は、人権思想が対国家であるという点を残しつつ、人権規定は人類普遍の原理であるから、なるべくその保障を私人間にも及ぼすべきであるといった考えを根本に置きます。
(3)無適用説
無適用説は、憲法の諸規定は国家対私人の関係であることを重視し、憲法の私人間適用を認めないとする見解です。これは、企業等による人権侵害は民法90条や709条の問題として処理すれば足りるとします。
判例についてはこちら(三菱樹脂事件)