【判例解説】具体的事実の錯誤(各論):最高裁昭和53年7月28日第三小法廷判決   

スポンサーリンク

 

Point 
1.犯人が認識した罪となるべき事実と現実に発生した事実とが、法定の範囲内において一致する場合には故意が認められる 

 

1.事案の概要 

 

 被告人は、巡査Aから拳銃を強取しようと考え、改造したびょう打銃で背後から巡査にびょうを発射した。これはAに命中し、Aは重傷を負った。更にこのびょうはAを貫通し、30メートル前方にいた歩行者Bにも命中し、Bにも重傷を負わせた。 

 

(関連条文)  

・刑法38条1項 「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。 

 

・刑法240条 「強盗が、人を負傷させたときは無期又は6年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。 

 

・刑法243条 「235条から第236条まで、第238条から第240条まで及び第241条第3項の罪の未遂は、罰する。 

 

【争点】 

Bに対する故意が認められるか  

 

 

2.判旨と解説 

 

 XはAの所持するけん銃を強取しようとびょうを発射しAを負傷させています。そのため、Xには、Aに対する強盗殺人未遂罪(殺意があることが認定されているため)が成立します。 

 

*強盗致死傷罪の解説はこちら 

 

更にXは、Aだけでなく近くにいたBにも傷害を負わせています。もっとも、XはB認識していませんでした。この場合、Xに、Bの負傷について故意が認められるでしょうかBに対する故意が認められなかった場合は強盗致傷罪が(強盗がその機会に故意なくして人を負傷させたため)、故意が認められた場合は強盗殺人未遂罪が成立することになります。 

 

最高裁は、発生した事実と認識した事実とが法定の範囲内で一致すれば、故意が認めれるとしました法定的符合説 

 

犯罪の故意があるとするには、罪となるべき事実の認識を必要とするものであるが、犯人が認識した罪となるべき事実と現実に発生した事実とが必ずしも具体的に一致することを要するものではなく、両者が法定の範囲内において一致することをもつて足りるものと解すべきである(大審院昭和六年(れ)第六〇七号同年七月八日判決・刑集一〇巻七号三一二頁、最高裁昭和二四年(れ)第三〇三〇号同二五年七月一一日第三小法廷判決・刑集四巻七号一二六一頁参照)から、人を殺す意思のもとに殺害行為に出た以上、犯人の認識しなかつた人に対してその結果が発生した場合にも、右の結果について殺人の故意があるものというべきである。 

 

 本件でXは、「人」(A)を殺害するつもりでびょうを発射しており、結果的に「人」(AとB)負傷させていますから、両者は法定の範囲内で符合するといえます。そのため、XにA・Bそれぞれに対する強盗殺人未遂罪が成立します。 

 

 これを本件についてみると、原判決の認定するところによれば、被告人は、警ら中のAからけん銃を強取しようと決意してAを追尾し、たまたま周囲に人影が見えなくなったとみて、Aを殺害するかも知れないことを認識し、かつ、あえてこれを認容し、建設用びょう打銃を改造しびょう一本を装てんした手製装薬銃一丁を構えてAの背後約一メートルに接近し、Aの右肩部附近をねらい、ハンマーで右手製装薬銃の撃針後部をたたいて右びょうを発射させたが、Aに右側胸部貫通銃創を負わせたにとどまり、かつ、Aのけん銃を強取することができず、更に、Aの身体を貫通した右びょうをたまたまAの約三〇メートル右前方の道路反対側の歩道上を通行中のBの背部に命中させ、同人に腹部貫通銃創を負わせた、というのである。これによると、被告人が人を殺害する意思のもとに手製装薬銃を発射して殺害行為に出た結果、被告人の意図したAに右側胸部貫通銃創を負わせたが殺害するに至らなかったのであるから、Aに対する殺人未遂罪が成立し、同時に、被告人の予期しなかつたBに対し腹部貫通銃創の結果が発生し、かつ、右殺害行為とBの傷害の結果との間に因果関係が認められるから、同人に対する殺人未遂罪もまた成立し(大審院昭和八年(れ)第八三一号同年八月三〇日判決・刑集一二巻一六号一四四五頁参照)、しかも、被告人の右殺人未遂の所為はAに対する強盗の手段として行われたものであるから、強盗との結合犯として、被告人のAに対する所為についてはもちろんのこと、Bに対する所為についても強盗殺人未遂罪が成立するというべきである。 

 

タイトルとURLをコピーしました