相手に暴行をした場合には暴行罪が成立します(刑208条)。暴行をした結果、相手に傷害を負わせた場合、暴行罪ではなく、傷害罪が成立します。
・刑法204条 : 「人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」
・刑法208条 : 「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」
*暴行罪についての解説はこちら
1.傷害罪が成立する具体例
「傷害」は、【人の生理的機能の侵害】と定義されます。例えば、相手を打撲、捻挫、骨折、失神等させた場合が挙げられます。また、睡眠障害、PTSD、性病に感染させることも「傷害」に該当するとされます。
当然のことですが、傷害を負わせる行為は暴行による場合が多いです。この場合、Aには、傷害罪が成立します。
他方で、暴行によらない傷害も存在します。この例で、Bのうつ病は「傷害」にあたりますので、傷害罪が成立しえます。
この場合、AはBを傷害し、もって死に至らしめています。そのため、Aには、傷害罪ではなく、傷害致死罪(刑205条)が成立します。
2.傷害罪と故意
犯罪の成立には故意が必要です(刑38条1項本文)。そのため、故意がない場合は犯罪が成立しないのが原則です。他方、「特別の規定」(同条但書、過失犯処罰規定等)がある場合、故意がなくても処罰されることがあります。
傷害罪とその周辺の犯罪(暴行罪、殺人罪等)の関係は複雑なので、具体例を使って、いかなる犯罪が成立するかを説明します。
傷害罪は、暴行罪の結果的加重犯を含むと解されています。結果的加重犯とは、意図していた結果(暴行)より重い結果(傷害)が生じた場合に、重い結果についての犯罪が成立する場合を指します。この特徴は、故意がない場合でも、重い犯罪が成立するという点です。その点で、結果的加重犯は38条1項但書の「特別の規定」にあたります。
暴行罪と傷害罪の関係でいうなら、暴行を行った結果相手が傷害を負った場合、傷害の故意がなくても、傷害罪が成立するのです。
したがって、この例では、Aに傷害罪が成立します。
また、傷害致死罪も、暴行罪、傷害罪の結果的加重犯と解されています。そのため、上記例で結果的にBが死亡した場合には、たとえ傷害や死についての認識がなくても、傷害致死罪が成立します。
殺意をもって暴行を加えて人を殺した場合、傷害致死罪ではなく、殺人(未遂)罪(刑199条)が成立します。
この場合、Aには殺意がありますので、殺人罪が成立します。
この場合、Aは暴行を行っていませんから、暴行罪は成立することはありません。それでは傷害罪はどうでしょうか。
暴行による傷害の場合に傷害の故意が不要なのは、傷害罪は暴行罪の結果的加重犯を含むからです。
そうすると、傷害の故意が不要なのは、暴行によって傷害を負わせた場合に限られることになります。そのため、暴行によらない傷害の場合には、原則に戻り(刑38条1項本文)、傷害の故意が必要になると解されます。
この例では、Aに傷害の故意はありません。したがって、Aに傷害罪は成立しません。
もっとも、刑法には別に過失致死傷罪(刑法209条・210条)が存在します。そのため、Aには過失傷害罪が成立する余地があります。
・刑法209条1項 :「過失により人を傷害した者は、30万円以下の罰金又は科料に処する。」
・同条2項 :「前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。」
・刑法210条 : 「過失により人を死亡させた者は、50万円以下の罰金に処する。」
暴行罪自体は故意犯です。この場合、Aに暴行の故意はありません。そのため、Aに暴行罪は成立しません。そして、暴行罪が成立しない以上、暴行罪の結果的加重犯たる傷害罪もまた成立しません。
なお、この場合にも、Aに過失傷害罪が成立する余地はあります。