Skip to main content

【判例解説】訴訟能力回復の見込みがない場合の措置(公判):最判平成28年12月19日 

Last Updated on 2022年10月13日

  

Point 
1.被告人に訴訟能力がないために公判手続が停止された後,訴訟能力の回復の見込みがなく公判手続の再開の可能性がないと判断される場合,裁判所は,刑訴法338条4号に準じて,判決で公訴を棄却することができる 

 

1.事案の概要 

 

 被告人は、「平成7年5月3日,愛知県豊田市内の神社境内において,当時66歳と1歳の被害者2名を,いずれも殺意をもって文化包丁で刺殺し,その際,業務その他正当な理由による場合でないのに,上記文化包丁を携帯した」という事実で、殺人罪、銃砲刀剣類所持等取締法違反で起訴されました。 

 

第1回公判期日において、被告人が精神疾患に罹患していることを理由に公判手続の停止の申立てがされ平成9年の第7回公判期日において、刑事訴訟法314条1項により公判手続が停止されました。その後平成26年の第1審判決まで約17年間にわたり公判手続が停止されました。 

 

 第1審は被告人について非可逆的な慢性化した統合失調症の症状に脳萎縮による認知機能の障害が重なっており訴訟能力はなくその回復の見込みがないと判示しました。そして、刑事訴訟法338条4号を準用して公訴棄却の判決を言い渡しました。 

 

 原判決は裁判所が訴訟手続を打ち切ることができるのは公判手続を停止した後訴訟能力の回復の見込みがないのに検察官が公訴を取り消さないことが明らかに不合理であると認められるような極限的な場合に限られる旨判示し、本件ではこれに当たらないとして、第1審判決を破棄しました。 

 

(関連条文) 

・刑事訴訟法314条1項 「被告人が心神喪失の状態に在るときは、検察官及び弁護人の意見を聴き、決定で、その状態の続いている間公判手続を停止しなければならない。但し、無罪、免訴、刑の免除又は公訴棄却の裁判をすべきことが明らかな場合には、被告人の出頭を待たないで、直ちにその裁判をすることができる。 

・刑事訴訟法338条 「左の場合には、判決で公訴を棄却しなければならない。 

 4号 「公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるとき。 

 

【争点】 

・公判手続が停止され、被告人の心神喪失状態回復の見込みがない場合に、裁判所が取るべき措置 

 

2.判旨と解説 

 

 本件では、被告人が心神喪失の状態、すなわち訴訟能力を欠く状態にあることが認定されています。このような場合、裁判所は公判手続きを停止することができ、実際、本件第1審も公判手続きを停止しています。 

 

*訴訟能力の解説についてはこちら 

 

 被告人に訴訟能力が戻った場合、裁判所は公判手続きを再開します。しかし、被告人の訴訟能力が回復せず、またその見込みがない場合、訴訟係属はしているものの、手続きが全く進まないことになります。本件では、公判手続きの停止状態が17年も続いていました。 

 

 その状態で裁判所が取るべき措置について明文の規定はありません。そこで最高裁は、被告人に訴訟能力がないために公判手続が停止された後訴訟能力の回復の見込みがなく公判手続の再開の可能性がないと判断される場合裁判所は刑訴法3384号に準じて,判決で公訴を棄却することができるとしました。 

 

訴訟手続の主宰者である裁判所において,被告人が心神喪失の状態にあると認めて刑訴法314条1項により公判手続を停止する旨決定した後,被告人に訴訟能力の回復の見込みがなく公判手続の再開の可能性がないと判断するに至った場合,事案の真相を解明して刑罰法令を適正迅速に適用実現するという刑訴法の目的(同法1条)に照らし,形式的に訴訟が係属しているにすぎない状態のまま公判手続の停止を続けることは同法の予定するところではなく,裁判所は,検察官が公訴を取り消すかどうかに関わりなく,訴訟手続を打ち切る裁判をすることができるものと解される。刑訴法はこうした場合における打切りの裁判の形式について規定を置いていないが,訴訟能力が後発的に失われてその回復可能性の判断が問題となっている場合であることに鑑み,判決による公訴棄却につき規定する同法338条4号と同様に,口頭弁論を経た判決によるのが相当である。したがって,被告人に訴訟能力がないために公判手続が停止された後,訴訟能力の回復の見込みがなく公判手続の再開の可能性がないと判断される場合,裁判所は,刑訴法338条4号に準じて,判決で公訴を棄却することができると解するのが相当である。 

 

スポンサーリンク
コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です