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【判例解説】領置の適法性(捜査):東京高判平成30年9月5日 

 

Point 
1. 本件で行われた領置は適法である。 

 

1.事案の概要 

  

 被告人は、短期大学に侵入し現金約390万円を窃取したとして起訴されました。 

 

原判決は、被告人の犯人性を認定した証拠として、紙片1片(以下、「本件紙片」とします。)を挙げています。本件紙片は、短期大学職員が1000円札の束とともに封筒に入れたもので、その封筒は金庫に保管してありました。上記封筒は、中身のない状態で金庫内に放置されていました。 

 

本件紙片は、被告人が住む地上20階、地下2階建てマンション(以下、「本件マンション」とします。)の、地下1階のごみ置場から発見されました。ごみ置場にあった4つのゴミ袋のうちの1つから、本件紙片と被告人の名前が記載された配達伝票等が発見されたのです。これを発見した警察官は、マンションの管理人に、本件紙片を任意提出してもらいこれを領置しました。 

 

 

(関連条文)  

・刑事訴訟法197条1項 「捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。」 

・刑事訴訟法221条 「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者その他の者が遺留した物又は所有者、所持者若しくは保管者が任意に提出した物は、これを領置することができる。」 

 

 

【争点】 

・本件領置は適法か 

 

2.判旨と解説 

 

 警察官は本件紙片を領置により獲得しています。この手続きに違法があれば、本件紙片の証拠能力が否定される可能性があります。そこで、裁判所は、本件紙片の領置手続の適法性について検討します。 

 

*領置の解説はこちら 

*証拠能力の解説についてはこちら 

*違法収集証拠排除法則の解説はこちら 

 

 所持者等が「任意に提出した物」は領置することができます。そこで、まずは、本件紙片(ないしこれが入ったごみ袋)の所持者が誰であるか考えなければなりません。 

 

本件マンションの住民は、各階にあるごみステーションに不要となったごみを捨ててることになっています。それを清掃会社(管理組合から委託を受けたマンション管理会社から、更に委託を受けているもの)の清掃員が回収して地下1階のごみ置き場に下ろしていました。裁判所は、これらの扱いからすると、住民が捨てたごみ袋の占有は、清掃会社が各階のごみステーションからごみ袋を回収した時点で、管理組合・マンション管理会社・清掃会社に移転し、彼らがごみを重畳的に占有しているとします。 

 

「本件マンションにおけるごみの取扱いについて,原審証拠によれば,本件マンションには,各階にゴミステーションがあり,地下1階にごみ置場が設けられており,そのごみ処理は管理組合の業務とされ,管理組合はマンション管理会社に対しごみの回収・搬出等の清掃業務を含む本件マンションの管理業務を委託し,そのうち清掃業務については,そのマンション管理会社から委託を受けた清掃会社が行っていたこと,本件マンションでは,居住者が各階のゴミステーションにごみを捨て,これを上記清掃会社の清掃員が各階から集めて地下1階のごみ置場に下ろすなどして,ごみの回収・搬出作業を行っていたことが認められる。このような本件マンションにおけるごみの取扱いからすると,居住者等は,回収・搬出してもらうために不要物としてごみを各階のゴミステーションに捨てているのであり,当該ごみの占有は,遅くとも清掃会社が各階のゴミステーションから回収した時点で,ごみを捨てた者から,本件マンションのごみ処理を業務内容としている管理組合,その委託を受けたマンション管理会社及び更にその委託を受けた清掃会社に移転し,重畳的に占有しているものと解される。」 

  

そうすると、警察官はごみの所持者(ないし保管者)から提出を受けているので本件領置は刑訴法221条の要件を充足します。 

 

領置は任意捜査であるけれども、国民の権利を侵害する恐れのある行為です。そのため、刑訴221条に該当するからと言って、無制限に許されるものではありません。 

 

そこで、裁判所は以下の事情を指摘し、居住者等はごみがみだりに他人にその内容を見られることはないという期待を有しているが、このことを踏まえても、本件紙片を領置するに至った捜査は必要性がありその方法も相当なものであったから適法であったとしました。 

 

①平成25年10月頃から、近辺で侵入窃盗事件が多発しており、容疑者として被告人が浮上し被告人の公道確認をすることになった 

②マンション管理会社に防犯カメラの映像を見せてもらっていた状況で被告人の出したごみの捜査をすることになった 

③マンション管理会社等とごみ回収のやり方を協議し、被告人が居住する階ごみについては他の回と混ざらないように回収することとなった 

④5月16日も、外観から被告人が出したと思われるごみ4袋についてマンション管理会社の管理員が立ち会って1袋ずつ開封していった 

⑤そのうちの1つから本件紙片が見つかったため、そのごみ袋をいったん管理員の返し、その後改めて提出を受けた 

⑥ごみ袋を開け内容を確認した行為は、領置した物の占有を継続するか否か判断するために必要なものである 

⑦本件マンションは出入り口が多数あったため被告人を追尾できなかったり、被告人の行動により途中で追尾できなくなるなどし、ごみ捜査を行って証拠を収集する必要が高かった 

⑧窃盗の嫌疑があったため、被告人が被害品の一部等犯行に関連する証拠が混ざっている可能性があったため、ごみ捜査を行う合理性もあった 

⑨被告人が検挙されないようにする行動をとっていたことが推測されたので、約4か月間ごみ捜査をするのはやむを得ない 

⑩警察官は、ごみを絞り込むことで、開封するごみ袋を限定する措置をとっていた 

 

「このことを踏まえて,本件紙片を領置するに至った捜査過程について見ると,原審証拠によれば,平成25年10月頃から警視庁管内で会社事務所を狙った侵入窃盗事件が多発し始め,警察が捜査していたところ,翌年に中野警察署管内で発生した侵入窃盗事件について,手口から容疑者として被告人が浮上し,被告人の行動確認をすることになり,本件マンションの管理組合が管理業務を委託している上記マンション管理会社に対し捜査関係事項照会を行って本件マンションに設置された防犯カメラの画像を見せてもらっていた状況で,被告人の出すごみの捜査をすることになり,上記マンション管理会社の指示を受けて,本件マンションにおける同社の管理責任者や上記清掃会社のごみ回収責任者とやり方を協議し,被告人の住戸のあるE階のごみについては,他の階のごみと混ざらないように専用のバッカンに入れて地下1階のごみ置場に下ろし,警察官が管理員のいる警備室を通ってそのごみ置場に行き,上記ごみ回収責任者等が立ち会ってそのごみの確認をするという方法で,平成28年4月8日頃からごみの捜査を行っていたこと,5月16日も,警察官らが警備室で管理員の了解を得て地下1階のごみ置場に行き,E階から回収されたごみのうち,外観から被告人の出したごみの可能性のあるごみ4袋について,上記マンション管理会社の管理員が立ち会って,1袋ずつ開封していき,そのうちの1袋から本件紙片等が発見されたため,立ち会っていた管理員からそのごみ1袋の任意提出を受けて領置した上,そのごみ1袋をその管理員にいったん還付し,改めてその管理員から本件紙片等のみの任意提出を受けて領置したことが認められる。このように,本件紙片等の入っていたごみ1袋を含むごみ4袋は,上記マンション管理会社や清掃会社が占有するに至っていたものであり,本件紙片等を領置するに至ったごみの捜査は,本件マンションの管理業務の委託を受けている上記マンション管理会社が,法律に基づいた権限により行われている公益性の高い犯罪捜査に協力している状況で,更にごみの捜査にも協力することにし,同社の従業員や同社から委託を受けてごみの回収・搬出を行っている上記清掃会社の従業員と協議して行われたものであるから,本件紙片等の入っていたごみ1袋を含むごみ4袋は,その所持者が任意に提出した物を警察が領置したものであり,警察がそのごみ4袋を開封しその内容物を確認した行為は,領置した物の占有の継続の要否を判断するために必要な処分として行われたものであるといえる。このようなごみの捜査を行う必要性について見ると,原審証拠によれば,被告人は,平成25年10月頃から警視庁管内で会社事務所等を狙った侵入窃盗事件が多発し始めていた状況の中,中野警察署管内で発生した侵入窃盗事件の手口からその容疑者と目され,行動確認のための捜査が行われたが,本件マンションには出入口が多数あって被告人が本件マンションを出るのを把握することが遅れて追尾できなかったり,被害発生現場付近まで追尾できるようになってもその付近における被告人の行動から失尾してしまったりするなどの状況から,被告人に対し学校,会社事務所等を狙って多発していた侵入窃盗事件の嫌疑が高まっていたものであり,上記のようなごみの捜査を行う必要性は高かったといえる。また,被告人の捨てたごみの中には,被告人に対する嫌疑がある侵入窃盗事件の被害品の一部や犯行時に犯行現場付近に存在したことを示すような証拠等が混ざっている可能性があるから,上記のようなごみの捜査を行う合理性もあったといえる。さらに,上記のようなごみの捜査の相当性について見ても,Fの原審証言によれば,上記のようなごみの捜査は,本件紙片を領置した日だけでなく,4月8日頃から被告人逮捕の前日である8月1日頃まで行われていたことが認められるが,上記のとおり,被告人が警察に検挙されないようにする行動を取っていると推測される状況があったことからすると,上記のような証拠になり得る物がごみとして出されるのをとらえるために,ある程度の期間にわたって上記のようなごみの捜査をすることもやむを得なかったといえる。しかも,上記のとおり,警察は,被告人の住戸のあるE階のごみの中から,外観から被告人が出したごみの可能性のあるごみ袋に絞り込んでおり,領置して開封するごみ袋を極力少なくする配慮をしていたのである。これらのことからすると,上記のようなごみの捜査は,相当な方法で行われていたといえる。本件マンションの居住者等は,ゴミステーションに捨てたごみが清掃会社によりそのまま回収・搬出され,みだりに他人にその内容を見られることはないという期待を有しているものといえるが,このことを踏まえても,本件紙片を領置するに至った捜査は,上記のような必要性があり,その方法も相当なものであったのであるから,警察がその所持者から本件紙片等の入っていたごみ1袋を含むごみ4袋の任意提出を受けて領置した上,それらのごみ袋を開封してその内容物を確認し,証拠となり得る物と判断した本件紙片等について,改めて任意提出を受けて領置した捜査手続は適法なものといえる。」 

 

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