刑事裁判では、犯罪が行われたか否かを裁判所が判断します。しかし、裁判所は現場で犯行を実際に見ていたわけではありません。そのため、本当に犯罪が行われたか、そして被告人がその犯罪を行ったか否かを、事後的に認定しなければなりません。その認定の資料となるのが証拠です。
・刑事訴訟法317条 「事実の認定は、証拠による。」
一口に証拠と言っても、これには様々な種類があります。証拠の種類なんて知っても無駄ではないかと考えるかもしれません。しかし、証拠の種類は刑事裁判ではとても重要なのです。なぜなら、証拠によっては、これを裁判で使えなかったり、また、証明力が限定的だったりするためです。そこで、ここでは証拠の種類について解説します。
1.直接証拠と間接証拠
直接証拠は主要事実(構成要件に該当する事実等)を直接証明する証拠です。他方、間接証拠(状況証拠ともいう)は間接事実(主要事実を推認する事実)を証明する証拠です。
直接証拠の例として、犯行を犯した・見たという被告人の自白、目撃者の供述、犯行が映っている防犯カメラの映像が挙げられます。間接証拠の例として、犯行現場にあった被告人の指紋、被告人の指紋付きの凶器などが挙げられます。
ここで難しいのは主要事実と間接事実の違いです。両者の違いを大雑把に言えば、主要事実を証明するために更なる推認が必要か否かです。
これから、殺人罪を例に使います。殺人罪の主要事実は、被告人が被害者を殺したか否かです。
例えば、被告人の自白や目撃者の証言が証拠として存在したとします。そして証言の内容が「自分が被害者を殺害した」「被告人が被害者をナイフで刺すのを見た」とするものであったとします。
この場合、証拠から導き出される事実(証言内容)=被告人が被害者を殺したこと、つまり殺人罪の主要事実となります。このように、何ら推認をせずに主要事実を証明することができる場合、証拠から導き出された事実は主要事実となり、これを証明する証拠(被告人らの供述)は直接証拠となります。
他方、目撃者の証言(証拠)の内容が「被告人が犯行に使われた凶器を所持しているのを見た」というものだったとします。この証拠から導き出される事実は、犯行に使われた凶器を被告人が所持していたという事実です。しかし、この事実だけでは被告人が被害者を殺した(主要事実)ことは証明できません。
なぜなら、上記事実から導き出されるのは、被告人が犯罪に使われた凶器を所持していたという事だけで、被告人が被害者を殺したというには、更に推認を挟む必要があるからです(被告人が犯行に使われたナイフを所持→被告人が被害者を殺した)。
このように、主要事実か間接事実かを判断するには、主要事実が何かを画定し、そして証拠から直接導き出される事実がいかなるものかを確認しなければなりません。
2.人的証拠と物的証拠
人的証拠は、証拠方法が人である場合、物的証拠は証拠方法がものである場合を言います。証拠方法とは、証拠調べの対象となるものの性質を言います(例えば、公判で証言する証人は人証、凶器や被害者の自白を記載した調書等は物証)。
3.供述証拠と被供述証拠
供述証拠は、口頭・文書を問わず人の体験を言葉で表現したものをいいます。人が公判で証言する場合はもちろん、被疑者・目撃者の取調べの結果を記載した調書も供述証拠となります。それ以外の証拠を被供述証拠といいます。
供述証拠は、伝聞証拠に当たる場合には証拠とすることができません(刑訴320条1項)