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[解説] 国籍法違憲判決④(法の下の平等):最高裁平成20年6月4日大法廷判決

Last Updated on 2022年3月15日

Point 

1.立法目的に合理的な根拠が認められない、又は、立法目的と具体的な区別の間に合理的関連性が認められない場合には,合理的な理由のない差別として憲法14条1項に違反する

2.国籍法3条1項は、立法目的と具体的な区別の間に合理的関連性を欠き、不合理な差別であるため、憲法14条1項に反し違憲である 

3.国籍法3条1項の違憲部分を除いた規定について合理的な解釈を行い、原告を救済した 

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また、国籍法8条1項が簡易帰化により日本国籍の付与を認めているが、これを国籍取得の代替規定とすることはできず、上記合理的関連性の欠如を補完しているとはいえないとします。 

 

「確かに,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知された子についても,国籍法8条1号所定の簡易帰化により日本国籍を取得するみちが開かれている。しかしながら,帰化は法務大臣の裁量行為であり,同号所定の条件を満たす者であっても当然に日本国籍を取得するわけではないから,これを届出による日本国籍の取得に代わるものとみることにより,本件区別が前記立法目的との間の合理的関連性を欠くものでないということはできない。」 

 

更に、仮装認知による国籍取得防止(認知のみで国籍取得できるとすると、認知を仮装して日本国籍を取得しようとするものが現れる)も準正要件を定めた目的の1つと解されるが、そのおそれがあっても、準正要件を課すことが目的達成の手段として必ずしも合理的関連性があると言えないとします。 

 

「なお,日本国民である父の認知によって準正を待たずに日本国籍の取得を認めた場合に,国籍取得のための仮装認知がされるおそれがあるから,このような仮装行為による国籍取得を防止する必要があるということも,本件区別が設けられた理由の一つであると解される。しかし,そのようなおそれがあるとしても,父母の婚姻により子が嫡出子たる身分を取得することを日本国籍取得の要件とすることが,仮装行為による国籍取得の防止の要請との間において必ずしも合理的関連性を有するものとはいい難」い。 

 

以上より、国籍3条1項は、立法目的は合理的だが、立法目的との合理的関連性が現代では失われたため、不合理な差別であり憲法14条1項に反するとしました。

 

「以上によれば,本件区別については,これを生じさせた立法目的自体に合理的な根拠は認められるものの,立法目的との間における合理的関連性は,我が国の内外における社会的環境の変化等によって失われており,今日において,国籍法3条1項の規定は,日本国籍の取得につき合理性を欠いた過剰な要件を課するものとなっているというべきである。…本件区別は,遅くとも上告人が法務大臣あてに国籍取得届を提出した当時には,立法府に与えられた裁量権を考慮してもなおその立法目的との間において合理的関連性を欠くものとなっていたと解される。したがって,上記時点において,本件区別は合理的な理由のない差別となっていたといわざるを得ず,国籍法3条1項の規定が本件区別を生じさせていることは,憲法14条1項に違反するものであったというべきである。」 

 

もっとも、国籍法3条1項が違憲であるとして全部無効であるとすると、準正のあった子の国籍取得をすべて否定することになり、同法を定めた立法府の合理的意思に反するとします。 

 

「以上のとおり,国籍法3条1項の規定が本件区別を生じさせていることは,遅くとも上記時点以降において憲法14条1項に違反するといわざるを得ないが,国籍法3条1項が日本国籍の取得について過剰な要件を課したことにより本件区別が生じたからといって,本件区別による違憲の状態を解消するために同項の規定自体を全部無効として,準正のあった子(以下「準正子」という。)の届出による日本国籍の取得をもすべて否定することは,血統主義を補完するために出生後の国籍取得の制度を設けた同法の趣旨を没却するものであり,立法者の合理的意思として想定し難いものであって,採り得ない解釈であるといわざるを得ない。」 

 

 

そうすると、準正で日本国籍を認める規定の存在を前提として不合理な差別を受けている者の救済を図るべきであるとします。そして、平等取扱いと父母両系血統主義を踏まえると、父から出生後に認知されたにとどまる子についても日本国籍を認めるとするのが相当であるとします。 

 

「そうすると,準正子について届出による日本国籍の取得を認める同項の存在を前提として,本件区別により不合理な差別的取扱いを受けている者の救済を図り,本件区別による違憲の状態を是正する必要があることになる。このような見地に立って是正の方法を検討すると,憲法14条1項に基づく平等取扱いの要請と国籍法の採用した基本的な原則である父母両系血統主義とを踏まえれば,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知されたにとどまる子についても,血統主義を基調として出生後における日本国籍の取得を認めた同法3条1項の規定の趣旨・内容を等しく及ぼすほかはない。すなわち,このような子についても,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したことという部分を除いた同項所定の要件が満たされる場合に,届出により日本国籍を取得することが認められるものとすることによって,同項及び同法の合憲的で合理的な解釈が可能となるものということができ,この解釈は,本件区別による不合理な差別的取扱いを受けている者に対して直接的な救済のみちを開くという観点からも,相当性を有するものというべきである。」 

 

また、この解釈は、過剰部分を取り除いた国籍法3条1項を合理的に解釈しただけであり、同項の趣旨及び目的にも沿うので、裁判所による立法作用として許されないとはいえないとします。 

 

「そして,上記の解釈は,本件区別に係る違憲の瑕疵を是正するため,国籍法3条1項につき,同項を全体として無効とすることなく,過剰な要件を設けることにより本件区別を生じさせている部分のみを除いて合理的に解釈したものであって,その結果も,準正子と同様の要件による日本国籍の取得を認めるにとどまるものである。この解釈は,日本国民との法律上の親子関係の存在という血統主義の要請を満たすとともに,父が現に日本国民であることなど我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を満たす場合に出生後における日本国籍の取得を認めるものとして,同項の規定の趣旨及び目的に沿うものであり,この解釈をもって,裁判所が法律にない新たな国籍取得の要件を創設するものであって国会の本来的な機能である立法作用を行うものとして許されないと評価することは,国籍取得の要件に関する他の立法上の合理的な選択肢の存在の可能性を考慮したとしても,当を得ないものというべきである。」 

 

結論として、出生後日本国籍の父による認知とその他所定の一定要件が満たされる場合に、日本国籍を取得できるとするべきとしました。 

 

「したがって,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知された子は,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したという部分を除いた国籍法3条1項所定の要件が満たされるときは,同項に基づいて日本国籍を取得することが認められるというべきである。」 

 

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