強要罪(刑223条)は、暴行・脅迫を用いて、相手の権利行使を妨害したり、義務のないことを行わせたりした場合に成立します。
・刑法223条1項 「生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。」
・同条2項 「親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。」
・同条3項 「前2項の罪の未遂は、罰する。」
強要罪は、意思決定に基づく行動の自由を保障しています。強要罪は、脅迫罪(刑222条)と異なり、未遂も罰せられます(刑223条3項)。
*脅迫罪の説明はこちら
1.強要罪の内容
本罪の「脅迫」は脅迫罪と同様に、相手方を畏怖させるに足る害悪の告知です。
例① Aは、Bに借金をしていた。借金を返す日になり、Bは借金を返してもらおうとAの家を訪ねた。すると、Aは「借金をチャラにしろ。そうでないと、お前の家を燃やすぞ」と言った。畏怖したBは、借金を返してもらうのを諦めた。
Aは、Bの財産(家)に害を加える旨を告知し、これに畏怖したBの権利行使を妨害していますから、Aに強要罪が成立します。
例② 事業主であるAは、法人Bに「うちの商品を買え。そうしないと、虚偽の情報を流布してB社の評判を下げるぞ」と言った。評判を下げられることを恐れたB社は、仕方なくAの売る商品を購入した。
脅迫罪と同様に、本罪の客体に法人を含むかについては、肯定説、否定説があります。肯定説をとると、この場合、Aに強要罪が成立します。
例③ Aは、Bに「金を貸さないと痛めつけるぞ」と言った。Bは畏怖しなかったが、Aを可哀そうに思い、金を貸してあげた。
強要罪が成立するには、脅迫・暴行→意思抑圧→結果といった因果関係の流れが必要です。この場合、Bは哀れみの気持ちでAに金銭を貸しています。そのため、意思抑圧を欠くので、Aには強要罪は成立せず、強要未遂罪にとどまります。
例④ Aは、Bに借金をしていた。Aは、この借金を踏み倒そうとBの家に行き、Bの子供Cに暴行を加え、「やめてほしければ、借金をチャラにしろ」と言った。Bは仕方なく借金を帳消しにした。
強要罪では、親族に対する行為に暴行は含まれていません。(223条2項)。本件で、Aが行ったのは、Bの親族(C)に対する暴行です。そのため、Bに対する強要罪は成立せず、Cに対する暴行罪のみが成立するように思われます。
もっとも、その後に言った「やめてほしければ~」というセリフは、親族Cの身体に対し害を加える旨を告知し、Bを脅迫したと言えます。そのため、結果的に、Bに対する強要罪(2項)が成立します。
このように、2項の規定する親族に対する行為に、暴行が含まれていないことに注意しましょう。親族に対し暴行を加えただけでは、2項の強要罪は成立しないのです。もっとも、親族や物に対する暴行は、親族に対する脅迫、又は、本人に対する脅迫として評価することが可能です。