民事訴訟は、ある者がある者に対する訴え(民訴133条1項)を提起することで開始します。
*訴えについての解説はこちら
訴訟に置いて、判決の名宛人となる者(原告、被告)を当事者といいます。民事訴訟は、対立する2以上の当事者が存在することが前提となっていますので、当事者が存在しなければ民事訴訟は成り立ちません。また、判決の既判力(民訴115条1項)などを考える上で、当事者が誰であるかは非常に重要です。
・民事訴訟法115条1項柱書 「確定判決は、次に掲げる者に対してその効力を有する。」
・1号 「当事者」
例① Xは、Yと不動産の売買契約を締結した。しかし、Yは一向に代金を支払わない。そこで、Xは裁判所に訴えを提起した。
当事者を確定する際には、当事者欄の記載を基礎に請求の趣旨・原因を広く考慮します(通説、実質的表示説)。
例でXは、おそらく被告人欄にYの名前・住所を記載しているでしょう。また、請求の趣旨・原因はX-Y間の売買契約に基づき代金を支払えという内容となっているでしょう。以上から、この訴訟の当事者はXとYという事になります(なお、訴訟代理人である弁護士はここでいう当事者ではありません。)。
この例において、当事者が誰であるかは一目瞭然でしょう。しかし、例えば以下の場合はどうでしょう。
例② Aは、Xの氏名を冒用して、Xの名でYに対する訴えを提起した(X-Y間の売買契約に基づく代金支払請求)。
当事者の確定が問題となる場合の1つとして、この例のような氏名冒用訴訟が挙げられます。この場合、実際に訴えを提起したのはAなので、Aが当事者となるよう思われます。しかし、訴状に記載されているのはXです。この場合どちらが当事者となるでしょうか。難しい問題ですが、表示説を基礎として考えるならば、当事者は氏名を冒用されたXになるでしょう。そうすると、この訴訟で氏名冒用の事実が明らかにならずに判決が確定してしまった場合、判決の効力がXに対して及ぶことになります(もっとも、Xに手続き保障が無いため、判決が無効→Xに判決の効力が及ばないとする見解もあります)。判決の効力がXに及ぶと考えた場合、Xは判決の効力を覆すために上訴や再審の訴えを提起することになります。