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[解説] 再婚禁止期間の合憲性②(法の下の平等):最高裁平成27年12月16日大法廷判決

Last Updated on 2022年3月15日

Point 

1.憲法24条2項は,婚姻及び家族に関する事項について,国会の合理的な立法裁量に委ねた規定である 

2.婚姻をする自由は憲法24条1項の趣旨に照らし、十分に尊重に値するとします。 

3.立法目的に合理的な根拠があり,かつ,その区別の具体的内容が上記の立法目的との関連において合理性を有するものであるかどうかという観点から、再婚禁止期間が平等原則に反しないかを審査し、これを一部違憲とした 

①はこちら

 

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そして、民法733条1項は、婚姻をすることについての自由に対する直接的な制約(他の行為を禁止した結果、間接的に制約を受けるという性質ではない)となるので、本件規定の合理的根拠の有無については以上の事柄を考慮して検討すべきとします。
 
そこで、本件規定の合憲性について、
①区別をする立法目的に合理的な根拠があり、かつ、
②区別の内容が立法目的と合理的関連性を有するか否かで判断するとします。 

 

「そうすると,婚姻制度に関わる立法として,婚姻に対する直接的な制約を課すことが内容となっている本件規定については,その合理的な根拠の有無について以上のような事柄の性質を十分考慮に入れた上で検討をすることが必要である。そこで,本件においては,上記の考え方に基づき,本件規定が再婚をする際の要件に関し男女の区別をしていることにつき,そのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠があり,かつ,その区別の具体的内容が上記の立法目的との関連において合理性を有するものであるかどうかという観点から憲法適合性の審査を行うのが相当である。」 

 

最高裁は、以下の事実を指摘し、本規定の目的は、女性の再婚後に生まれた子につき父性の推定の重複(後に解説)を回避し,もって父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐこととします(過去の判例を踏襲)。そして、この立法目的には合理性があるとします。 

①結婚している妻の子については夫の子と推定される(民法772条1項)が、その子が夫の子であることを否認するには嫡出否認の訴えという特別の手続きが必要で、この訴えは子の出生を知った時から1年以内に提起しなければならない(民法775条、777条) 

②①の規定により法律上の父子関係を早期確定できる 

③この仕組みのもとで、女性が離婚後すぐに結婚し子を産んだ場合、父性の推定が重複し、その子が前夫、後夫どちらの子か直ちに定まらないため紛争が生じることがあり、これは子の利益に反する(後に解説)。 

④民法733条2項は離婚時に懐胎していた場合にはその出産の日から本件規定の適用がないことを規定している→つまり、離婚時に懐胎していた場合、その子の出産後には結婚できるようになる 

⑤民法773条は再婚禁止期間に女性が再婚し出産した場合で、民法772条で父を定めることができない場合は裁判所が父を定めるとしている 

⑥これらの規定は、本件規定が父性の推定の重複を避けるために定められたことを前提としており、再婚禁止規定に違反した場合の後処理について定めたものである 

 

【補足1】 

 父性の推定の重複はややこしいので詳しく説明します。 

まず、①離婚後300日以内に生まれた子は前夫と、②結婚後200日を超えて生まれた子は新しい夫との婚姻中に懐胎した子と推定されます。そして、婚姻中に懐胎した子はその夫の子と推定されます(父性の推定)。 

それでは、女性が前夫と離婚した日に後夫と再婚したとします。そして、その日から250日後に子供が生まれたとします。この子供は、離婚後300日以内に生まれていますから、前夫と婚姻中に懐胎したことが推定→前夫との子と推定されます。 

他方、その子は後夫との婚姻の日から200日を過ぎて生まれているため、後夫と婚姻中に懐胎したことが推定→後夫との子とも推定されます。 

そのため、生まれてきた子の父が二人推定されることになるのです。これを父性の推定の重複といいます。

 

「本件規定の立法目的について…現行の民法は,嫡出親子関係について,妻が婚姻中に懐胎した子を夫の子と推定し(民法772条1項),夫において子が嫡出であることを否認するためには嫡出否認の訴えによらなければならず(同法775条),この訴えは夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければならない(同法777条)と規定して,父性の推定の仕組みを設けており,これによって法律上の父子関係を早期に定めることが可能となっている。しかるところ,上記の仕組みの下において,女性が前婚の解消等の日から間もなく再婚をし,子を出産した場合においては,その子の父が前夫であるか後夫であるかが直ちに定まらない事態が生じ得るのであって,そのために父子関係をめぐる紛争が生ずるとすれば,そのことが子の利益に反するものであることはいうまでもない。民法733条2項は,女性が前婚の解消等の前から懐胎していた場合には,その出産の日から本件規定の適用がない旨を規定して,再婚後に前夫の子との推定が働く子が生まれない場合を再婚禁止の除外事由として定めており,また,同法773条は,本件規定に違反して再婚をした女性が出産した場合において,同法772条の父性の推定の規定によりその子の父を定めることができないときは裁判所がこれを定めることを規定して,父性の推定が重複した場合の父子関係確定のための手続を設けている。これらの民法の規定は,本件規定が父性の推定の重複を避けるために規定されたものであることを前提にしたものと解される。以上のような立法の経緯及び嫡出親子関係等に関する民法の規定中における本件規定の位置付けからすると,本件規定の立法目的は,女性の再婚後に生まれた子につき父性の推定の重複を回避し,もって父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあると解するのが相当であり(最高裁平成4年(オ)第255号同7年 12月5日第三小法廷判決・裁判集民事177号243頁(以下「平成7年判決」 という。)参照),父子関係が早期に明確となることの重要性に鑑みると,このような立法目的には合理性を認めることができる。」 

もっとも、本件規定を設けずとも父を定める訴え(民法773条)の適用対象を広げることで容易に父性の推定を回避できるので本件規定は不要とする指摘に対して、以下の事実を指摘し反論します。 

①医療や科学技術の発展により、極めて精度の高いDNA検査で生物学における親子関係を確認できるのは事実 

②しかし、父性の推定が重複する期間に生まれた子供は、一定の裁判手続きを経るまでは法律上の父が定まらない状態に置かれる(DNA検査で生物学上の父が明らかになっても、彼が直ちに法律上の父となるわけでない、つまり、この場合に法律上の父を定めるには裁判手続等が必要となる) 

③法律上の父が定まらない状態が続くと、子に種々の影響が生じる。

 

「これに対し,仮に父性の推定が重複しても,父を定めることを目的とする訴え(民法773条)の適用対象を広げることにより,子の父を確定することは容易にできるから,必ずしも女性に対する再婚の禁止によって父性の推定の重複を回避する必要性はないという指摘があるところである。確かに,近年の医療や科学技術の発達により,DNA検査技術が進歩し,安価に,身体に対する侵襲を伴うこともなく,極めて高い確率で生物学上の親子関係を肯定し,又は否定することができるようになったことは公知の事実である。しかし,そのように父子関係の確定を科学的な判定に委ねることとする場合には,父性の推定が重複する期間内に生まれた子は,一定の裁判手続等を経るまで法律上の父が未定の子として取り扱わざるを得ず,その手続を経なければ法律上の父を確定できない状態に置かれることになる。生まれてくる子にとって,法律上の父を確定できない状態が一定期間継続することにより種々の影響が生じ得ることを考慮すれば,子の利益の観点から,上記のような法律上の父を確定するための裁判手続等を経るまでもなく,そもそも父性の推定が重複することを回避するための制度を維持することに合理性が認められるというべきである。」 

 

次に、立法目的が合理的であることを前提として、本件規定が立法目的との間で合理性を有するかを検討します。
 
まず、本件規定が定める6か月(約180日)の内、100日までの部分は、一律に再婚禁止とすることに立法目的との間に合理的関連性を有するとします。

 

【補足2】 

①離婚後100日は再婚禁止とすると、再婚が可能なのは101日目以降になります 

②再婚後200日を過ぎてから生まれた子供は後夫の子と推定されます 

そうすると、生まれてきた子が後夫の子と推定されるのは離婚から300日(再婚禁止期間100日+200日)を過ぎてからとなります。離婚から300日を過ぎると、前夫との子であるとの推定は働かなくなるため、父性の推定が重複することはないのです。 

 

「そうすると,次に,女性についてのみ6箇月の再婚禁止期間を設けている本件規定が立法目的との関連において上記の趣旨にかなう合理性を有すると評価できるものであるか否かが問題となる。…本件規定の立法目的は,父性の推定の重複を回避し,もって 父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあると解されるところ,民法772条2項は,「婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は,婚姻中に懐胎したものと推定する。」と規定して,出産の時期から逆算して懐胎の時期を推定し,その結果婚姻中に懐胎したものと推定される子について,同条1項が「妻が婚姻中に懐胎した子は,夫の子と推定する。」と規定している。そうすると,女性の再婚後に生まれる子については,計算上100日の再婚禁止期間を設けることによって,父性の推定の重複が回避されることになる。夫婦間の子が嫡出子となることは婚姻による重要な効果であるところ,嫡出子について出産の時期を起点とする明確で画一的な基準から父性を推定し,父子関係を早期に定めて子の身分関係の法的安定を図る仕組みが設けられた趣旨に鑑みれば,父性の推定の重複を避けるため上記の100日について一律女性の再婚を制約することは,婚姻及び家族に関する事項について国会に認められる合理的な立法裁量の範囲を超えるものではなく,上記立法目的との関連において合理性を有するものということができる。よって,本件規定のうち100日の再婚禁止期間を設ける部分は,憲法14条1項にも,憲法24条2項にも違反するものではない。」 

③はこちら

 

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