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【判例解説】逮捕する場合(捜査):最大判昭和36年6月7日 

Last Updated on 2022年3月27日

 

Point 
1.「逮捕する場合」とは単なる時点よりも幅のある逮捕する際をいい、逮捕着手の前後関係を問わない 

 

1.事案の概要 

 

 麻薬取締官4名は、昭和301011日午後830分頃、路上において麻薬を所持していた者を現行犯逮捕しました。そして、同人を連行の上、麻薬の入手先である被疑者宅に赴き、同人を緊急逮捕しようとしました。 

 

麻薬取締官らは午後930分頃被疑者宅に到着するも、被疑者は外出中でした。彼らは、帰宅次第被疑者を逮捕する態勢にあったので、先に被疑者宅の捜索を開始し、麻薬の包紙に関係ある雑誌及び麻薬を差押えました。捜索が終わるころ、被疑者が帰って来たので、午後950分頃、被疑者を緊急逮捕しました。 

 

 

(関連条文)  

・刑事訴訟法210条1項 「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。」 

・刑事訴訟法220条1項 「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第199条の規定により被疑者を逮捕する場合又は現行犯人を逮捕する場合において必要があるときは、左の処分をすることができる。第210条の規定により被疑者を逮捕する場合において必要があるときも、同様である。」  

・1号 「人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り被疑者の捜索をすること。」  

・2号 「逮捕の現場で差押、捜索又は検証をすること。」 

 

 

【争点】 

・逮捕前も「逮捕する場合」に含まれるか 

 

 

2.判旨と解説 

 

*この記事では「逮捕する場合」についての判示についての解説を行っており、その他の判示事項については触れていません。 

 

 麻薬取締官らは、被疑者を緊急逮捕する前に逮捕に伴う捜索・差押えを行っています。そこで、このような場合も「逮捕する場合」に該当するか問題になります。 

 

*緊急逮捕の解説はこちら 

*逮捕に伴う差押えの解説はこちら 

 

 この点最高裁は、「逮捕する場合」とは単なる時点よりも幅のある逮捕する際をいうとし、逮捕着手の前後関係を問わないとします。 

 

 「もつとも、右刑訴の規定について解明を要するのは、「逮捕する場合において」と「逮捕の現場で」の意義であるが、前者は、単なる時点よりも幅のある逮捕する際をいうのであり、後者は、場所的同一性を意味するにとどまるものと解するを相当とし、なお、前者の場合は、逮捕との時間的接着を必要とするけれども、逮捕着手時の前後関係は、これを問わないものと解すべきであつて、このことは、同条一項一号の規定の趣旨からも窺うことができるのである。従つて、例えば、緊急逮捕のため被疑者方に赴いたところ、被疑者がたまたま他出不在であつても、帰宅次第緊急逮捕する態勢の下に捜索、差押がなされ、且つ、これと時間的に接着して逮捕がなされる限り、その捜索、差押は、なお、緊急逮捕する場合その現場でなされたとするのを妨げるものではない。そして緊急逮捕の現場での捜索、差押は、当該逮捕の原由たる被疑事実に関する証拠物件を収集保全するためになされ、且つ、その目的の範囲内と認められるものである以上、同条一項後段のいわゆる「被疑者を逮捕する場合において必要があるとき」の要件に適合するものと解すべきである。」 

  

 本件では、麻薬取締官らは、被疑者宅の捜索を午後9時30分ごろから行い、これが終了する午後9時50分頃に被疑者を緊急逮捕しています。そのため最高裁は、両者は時間的に接着しているから、本件の捜索差押えは「逮捕する場合」に行われたものとしました。 

 

「してみると、本件は緊急逮捕の場合であり、また、捜索、差押は、緊急逮捕に先行したとはいえ、時間的にはこれに接着し、場所的にも逮捕の現場と同一であるから、逮捕する際に逮捕の現場でなされたものというに妨げなく、右麻薬の捜索、差押は、緊急逮捕する場合の必要の限度内のものと認められるのであるから、右いずれの点からみても、違憲違法とする理由はないものといわなければならない。」 

  

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